アントシアニン色素合成能を有するカンショの培養細胞系
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要約
紫カンショ品種「アヤムラサキ」塊根から誘導・選抜された細胞株は、高いアントシアニン色素合成能を有し、色素合成に光や植物ホルモンは不要である。また、色素組成は培地のアンモニウムイオン濃度の改変により制御可能である。
- 担当:九州農業試験場・畑地利用部・遺伝資源利用研究室、甘しょ育種研究室
- 連絡先:0986-22-1506
- 部会名:総合農業・作物生産、植物バイテク、畑作
- 専門:バイテク
- 対象:いも類
- 分類:研究
背景・ねらい
近年、アヤムラサキ等紫の肉色を有するカンショのアントシアニン色素が、食用色素等の食品素材として注目を集めている。カンショ色素を活用した加工産業を発展させていくためには、原料となるカンショ品種の色素成分を量的にも質的にも改良していくことが必要である。しかし、カンショ塊根におけるアントシアニン色素合成については不明の点も多く残されている。そこで、カンショにおけるアントシアニン生合成の機構を解明するための実験系として、アヤムラサキの細胞系を確立する。
成果の内容・特徴
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カンショ品種「アヤムラサキ」の塊根からカルス誘導され、繰り返し選抜し・確立された細胞株(図1)は、約1カ月の液体培養(MS改変培地)で「アヤムラサキ」塊根の3倍以上の濃度でアントシアニン色素を蓄積する(図3)。
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本細胞株のアントシアニン色素合成に、光や培地への植物ホルモンの添加(図2)は不要である。また、細胞増殖や色素合成に最適な培地のしょ糖濃度は5%程度である。
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本細胞株のアントシアニン色素合成量(図3)や色素の化学的組成は、培地の窒素条件により制御可能である。MS基本培地のアンモニア態窒素濃度では、塊根の色素に比べ、アシル化ないしメチル化の程度の低い色素を蓄積し、アンモニア態窒素濃度を下げると、未同定のアントシアニンを含め、塊根の色素よりもさらにアシル化ないしメチル化の程度の高い色素を蓄積する(図4)。
成果の活用面・留意点
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本培養細胞系は、カンショにおけるアントシアニン色素合成系の解明のための実験系として有用である。
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塊根には見られない高度にアシル化された色素の合成も可能であることから、より付加価値の高い色素の生産系としての可能性も考えられる。
具体的データ

図1 アヤムラサキ塊根由来のアントシアニン色素合成能を有する細胞株

図2 細胞の色素合成に及ぼす培地の2,4-D濃度の影響

図3 細胞の色素合成に及ぼす培地の硝酸アンモニウム濃度の影響

図4 硝酸アンモニウム20mM区(上)、0mM区のアントシアニン色素のODS-HPLC分析例
その他
- 研究課題名:アントシアニン色素合成能を有する甘しょの培養細胞系の開発
- 予算区分 :STAフェローシップ
- 研究期間 :平成10年度(平成9~10年)