九州高原草地における牧草と野草を組み合わせた周年放牧のための草地利用方式

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要約

九州高原草地を対象として、繁殖牛1頭(500kg)に対してトールフェスク草地30a、イタリアンライグラス草地14aおよび野草地125aを組み合わせて放牧利用することで、放牧専用地における補助飼料給与を必要としない周年放牧が可能である。

  • 担当:九州農業試験場 草地部 草地管理研究室
  • 連絡先:096-242-1150
  • 部会名:草地、畜産・草地
  • 専門:栽培、飼養管理
  • 対象:牧草類、家畜類
  • 分類:研究

背景・ねらい

近年、阿蘇・久住地域では永年牧草の秋季備蓄草地(ASP)を利用した周年放牧の研究が実施され、現場への普及も始まっている。しかし、従来の採草利用後の3番草を備蓄する方法だと、採草利用が困難な場所では適用できず、また、ASPは2月以降品質が低下するので、この時期補助飼料を給与する場合がある。そこで、永年牧草の基幹草地に冬作1年生牧草の補完草地を組み合わせることで、これらの欠点を克服する周年放牧技術を開発する。さらに、夏から秋にかけて基幹草地を備蓄する間に、施肥管理等が必要のない野草地を補完草地として放牧することで、低コスト化が図られ、現在利用されないことで荒廃が進みつつある野草地の保全も可能となる。

成果の内容・特徴

  • 冬季放牧におけるTDN維持要求量(舎飼時)に対するTDN採食量の比率と体重変化の関係(図1)および日本飼養標準の放牧による維持エネルギー要求量の増加分(やや厳しい:30%)+寒冷による増加分(摂氏0~5度:30~40%)から、冬季放牧中の繁殖牛1頭(空胎牛)の体重維持には舎飼時の70%増のTDN量を準備する必要がある。
  • 冬季放牧時の推定TDN含有率はトールフェスク草地(TF,品種:ホクリョウ・ナンリョウ)54%(11~2月)およびイタリアンライグラス草地(IR,品種:エース)70%(2月)であり、IR草地は2月に栄養価の高い牧草を供給することが出来る(表1)。
  • 冬季放牧において、IR草地では339kgDM/10a(239kgTDN/10a)の草が放牧利用できるので(表1)、2月から2ヶ月間放牧するには繁殖牛1頭(500kg)当たり14a必要である。TF草地では309kgDM/10a(166kgTDN/10a)の草が放牧利用できるので(表1)、11月から3ヶ月間放牧するには1頭当たり30a必要である。
  • 夏季放牧時のTF草地では体重比の2%程度の採食量で、体重は0.8kg/day増体する(表1)。早春の追肥量を少なくすることで、4月から100日間の定置放牧により残草が少なく高度利用できるので、掃除刈りの必要がない。
  • 野草地(ススキートダシバ優占,125a/頭)において135日間にわたって体重維持の放牧が可能であり(表2)、TF草地の備蓄期間中(115日)の野草地における夏季放牧には面積125aで充分である。
  • 図2に示したスケジュールで、放牧専用地における補助飼料無給与の省力的な周年放牧が可能である。

成果の活用面・留意点

  • この方式は採草の困難なところに適しており、冬季において出産前後から離乳までの繁殖牛および子牛や育成牛等の高栄養を必要とする牛を放牧するときには冬季補完用IR草地が有効である。
  • 冬季補完用のIR草地は毎年造成する必要がある。

具体的データ

表1 TF草地(25a/頭)およびIR草地(10a/頭:1995-96,20a/頭:1996-97)における放牧日数,乾物被食量(kg/10a),冬季のTDN%,TDN被食量(kg/10a),日乾物被食量(体重比%)および体重変化(kg/day)

 

図1 冬季放牧におけるTDN維持要求量に対するTDN採食量の比率と体重変化の関係

 

表2 野草地(125a/頭)における放牧日数および体重変化(kg/day)

 

図2 周年放牧の草地利用スケジュール,繁殖牛1頭(500kg)に対する必要面積および延べ放牧頭数

その他

  • 研究課題名:高原草地の安定維持利用技術と牧養力向上技術の確立
  • 予算区分:低コスト肉牛生産
  • 研究期間:平成11年度(平成6年度~平成12年度)