潮風による水稲の減収推定尺度
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要約
潮風に曝された水稲の収量は,稲体の塩付着量との間に負の相関がみられる。潮風発生直後の1穂あたりの塩付着量を指標として,水稲の相対収量が推定できる。
- 担当:九州農業試験場・生産環境部・気象特性研究室
(九州沖縄農業研究センター環境資源研究部気象特性研究室)
- 連絡先:096-242-7766
- 部会名:総合農業(生産環境)、生産環境、水田作
- 専門:農業気象
- 対象:稲類
- 分類:普及
背景・ねらい
東海地方から九州地方にかけての沿岸部の水田地帯では,台風にともなう海からの飛塩により水稲の潮風害が度々発生している。潮風が水稲の収量に与える影響については,潮風の発生時期,風速,塩濃度,水稲の品種など様々な要因が関与するため,その定量的な評価が困難であった。これら要因を組み合わせた潮風処理実験を行い,被害推定の指標を得ることを目的とした。
成果の内容・特徴
- 潮風の発生時期が出穂期から登熟中期の間においては,潮風が強風を伴う場合,伴わない場合,水稲の品種がヒノヒカリの場合,ユメヒカリの場合,これらいずれの場合にも潮風に曝された水稲は稲体の塩付着量(NaCl付着量)が多いほど収量が低下する。収量低下の傾向は,潮風発生直後の1穂あたりの塩付着量SP(mg)を指標として,以下の関係式により推定できる。

ここで,Yは実際の収量,Y'は塩付着量が0のときの収量,E(mg-1)は塩の影響の強さを表すパラメータである。Eは出穂期以降,登熟が進むにつれて小さくなり,出穂期でE=0.254,登熟初期でE=0.244,登熟中期でE=0.106である(図1)。
- 稲体の塩付着量は,風や露の影響を受けて時間の経過と共に減少する。穂の塩付着量の減少率は,雨のない場合で1日あたり約10%である(図2)。
- 上記関係式は,坪井(1961)が実験で得た結果から風の影響を除いた傾向(直線1)および市丸ら(1992)が台風9117号の通過後4日目の塩付着量測定から得た結果において4日間の塩付着量の減少分を40%と仮定して得た傾向(直線2)とほぼ一致した。
成果の活用面・留意点
- 台風通過後に,潮風の発生した水田地帯において穂の塩付着量を測定する(目安として1株分の穂を蒸留水に浸しEC計などで塩濃度を測定する)ことにより水稲の相対収量が容易に推定できる。ただし,品質の推定については今後の研究が必要である。
- 潮風発生から塩付着量の測定までの時間が長い場合,塩の減少分を考慮した補正が必要である。また,潮風発生から24時間以内に降雨のあった場合,本方法は適用できない。
具体的データ


その他
- 研究課題名:気候変動下における水田蒸発散量の評価,暖地水稲の低温・異常降雨下における生態及び生育反応の解明
- 予算区分:経常,特別研究(冷害予測)
- 研究期間:平成12年度(平成12~15年,平成6~9年),