セジロウンカの密度がトビイロウンカの増殖率に及ぼす影響

※アーカイブの成果情報は、発表されてから年数が経っており、情報が古くなっております。
同一分野の研究については、なるべく新しい情報を検索ください。

要約

セジロウンカの第1世代の密度が高いとトビイロウンカの第1世代から第2世代にかけての増殖率が低下することから、セジロウンカ密度をトビイロウンカ発生予察の際の新たな要因として考慮する必要がある。

  • キーワード:セジロウンカ、トビイロウンカ、種間相互作用、発生予察
  • 担当:九州沖縄農研・地域基盤研究部・害虫管理システム研究室
  • 連絡先:096-242-7731
  • 区分:九州沖縄農業・病害虫
  • 分類:科学・普及

背景・ねらい

セジロウンカが吸汁したイネ体上ではトビイロウンカの長翅型発現率が増加する(九州農業研究成果情報第14号)。長翅型発現率の増加は増殖率の低下をもたらすので、水田においてセジロウンカの密度がトビイロウンカの増殖率の変動に関与していると考えられる。トビイロウンカの増殖率の変動要因を明らかにすることは発生予察上重要であるが、セジロウンカの密度はトビイロウンカの増殖率の変動要因として、これまで全く考慮されていない。そこで、イネウンカ類2種の個体群動態に及ぼす種間相互作用について、予察灯データと水田における個体数調査データを用いて解析する。

成果の内容・特徴

  • セジロウンカの飛来後第1世代の予察灯誘殺数が多いほど、トビイロウンカの第1~第2世代にかけての増殖率が有意に低下する(図1)。トビイロウンカの増殖率は自種密度に依存して低下することが知られているが、自種密度の影響を除去しても種間の関係は有意である。
  • 水田においても、セジロウンカの第1世代幼虫が多いほどトビイロウンカの第1~第2世代にかけての増加率が有意に低下する(図2)。
  • 渡邊ら(1994)によるセジロウンカとトビイロウンカの年次別発生型の類型化データから両種間に種間相互作用が検出された。セジロウンカの発生型がII型の年次には、トビイロウンカの発生型は有意にI型になることから(表1)、セジロウンカの発生量が年間を通じて少ない年にはトビイロウンカの増殖率が高い。
  • 以上から、セジロウンカ密度をトビイロウンカ発生予察の際の新たな要因として考慮する必要がある。

成果の活用面・留意点

  • トビイロウンカの発生量予測や発生型判別において、これまで未検討であったセジロウンカ密度を新たな要因として組み入れることにより、発生量の予測精度向上に活用できる。
  • 山口県農業試験場では,本成果の情報を元にトビイロウンカの発生型の判別にセジロウンカ密度を新たな要因として加えて解析したところ,これまで68%前後だったトビイロウンカの9月多発生型の判別率が95%に向上した。
  • セジロウンカの飛来密度が高すぎる場合には、吸汁や産卵により生育初・中期のイネに被害が生じる可能性があるので、セジロウンカについても適切な個体群管理が必要である。

具体的データ

図1 セジロウンカの第1世代誘殺数とトビイロウンカ増殖率との関係 図2 水田におけるセジロウンカの第1世代幼虫数とトビイロウンカ第1~第2世代への増加数との関係1999年の水田における個体数調査データより。

 

表1 トビイロウンカとセジロウンカの発生型の類型化に基づく種間相互作用の検出

その他

  • 研究課題名:天敵と高精度発生予察を利用した海外飛来性害虫の総合防除技術の確立
  • 予算区分:IPM
  • 研究期間:1999~2001年度
  • 研究担当者:松村正哉、浦野 知、鈴木芳人
  • 発表論文等:1) 松村正哉 (2000) 農業技術 55: 269-273.
                      2) Matsumura (2001) J. Asia-Pacific Entomol. 4(2): 195-199.
                      3) Matsumura (2001) Proc. 3rd Int. Workshop Inter-Country Forecasting System and Management
                          for Brown Planthopper in East Asia: 47-52.