PCB、HCB等を分解する嫌気性微生物の農耕地土壌からの分離

※アーカイブの成果情報は、発表されてから年数が経っており、情報が古くなっております。
同一分野の研究については、なるべく新しい情報を検索ください。

要約

PCBを投与し40ヶ月間湛水条件下に置いた畑土壌及び高塩素化芳香族有機化合物の投与歴がない水田土壌を、それぞれ5ヶ月間、嫌気集積培養を行なうことにより高濃度(200ppm)のPCB類やヘキサクロルベンゼンを嫌気分解する嫌気性糸状菌が分離される。

  • キーワード:嫌気性糸状菌、PCB類、ヘキサクロルベンゼン、水田土壌、畑土壌
  • 担当:九州沖縄農研・環境資源研究部・土壌微生物研究室
            九州共立大学・工学部・総合研究所・環境開発部門
            ミシガン州立大学・微生物生態研究センター
  • 連絡先:092-242-1150
  • 区分:九州沖縄農業・生産環境(土壌肥料)
  • 分類:科学・参考

背景・ねらい

汚染農耕地土壌の環境修復技術として土壌の除去や組換え微生物の導入等は農業現場では実現困難であり、圃場に存在している土着の菌を活性化させ分解除去する手法が経済的で実現可能な手法の一つであると考えられる。還元的脱クロル化等の嫌気性細菌の還元的反応は酸化分解では分解困難な難分解性有機塩素系化合物の分解除去手法として有効であることが判明してきているが、難分解性の高塩素置換芳香族有機塩素系化合物を分解することのできる微生物の分離例は報告されていない。そこで農耕地土壌からの嫌気的分解に関与する嫌気性微生物の分離を検討する。

成果の内容・特徴

  • PCBを投与し40ヶ月間湛水条件下に置いた畑土壌、高塩素化芳香族有機化合物の投与歴がない水田土壌を接種源として、ビタミン溶液と微量元素からなる無機塩培地に酢酸又はギ酸を電子供与体とし、ヘキサクロルベンゼン(HCB、200ppm)を唯一の末端電子受容体として加え嫌気培養を行なうと、5ヶ月目でHCBを嫌気分解可能な嫌気性糸状菌の集積が達成される。分解物として1,2,3,4及び1,2,4,5-テトラクロルベンゼンとジクロルベンゼンが微量検出されるが中間体の蓄積は認められず、HCBはほぼ完全に分解消失する(図1)。
  • 各土壌から嫌気平板法で純粋分離してきた11株の菌は高濃度(200ppm)のHCBを1ヶ月で分解する(表1)。また、2,3,4-トリクロルビフェニル(2,3,4TB)にも同様な分解活性を有する(表1)。このような分解能を有する微生物の分離は現在まで報告がない。
  • 分離された菌は、嫌気平板では2日で樹状のコロニーを形成し、胞子を形成する嫌気性糸状菌であり、現在まで報告のない新規微生物である(図2)。

成果の活用面・留意点

  • 高塩素置換芳香族有機化合物の投与歴がない水田土壌中や畑土壌に、これらの化合物の高い分解能と、広い基質特異性を有する嫌気性微生物が存在することが明らかとなり、農耕地土壌の環境修復技術開発における基礎資料となる。

具体的データ

図1.集積培養液のHCB分解パターン(HPLC) 表1.分離源と分解活性

 

図2.水田土壌から分離したPCB、HCB分解能を有する嫌気性微生物

その他

  • 研究課題名:内分泌かく乱物質の環境中での脱ハロゲン化分解
  • 予算区分:環境ホルモン
  • 研究期間:1999~2002年度
  • 研究担当者:渡邊克二(九州沖縄農研)、吉川博道(九州共立大学)、John.F.Quensen、
                      James.M.Tiedje(ミシガン州立大学)