阿蘇地域の火入れ放棄によるススキ型草地の植生変化

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要約

阿蘇のススキ型草地では、火入れ放棄年数の経過とともにススキ等の草本植物に代わって木本植物が占める割合が高くなり、構成種数低下による種多様性低下が示唆される。また火入れ放棄により立枯れやリターが一時的に増大し野火の危険性が高まる。

  • キーワード:イネ科野草、生態、火入れ放棄、植生、ススキ、阿蘇
  • 担当:九州沖縄農研・畜産飼料作研究部・草地管理利用研究室
  • 連絡先:電話096-242-7757、電子メールshojiats@affrc.go.jp
  • 区分:九州沖縄農業・畜産草地(草地管理)、畜産草地・永年草地放牧
  • 分類:科学・参考

背景・ねらい

阿蘇地域の広大なススキ型草地は、主に火入れ(野焼き)や放牧等によってその植生が維持されてきたが、近年高齢化・有畜農家の減少等から労力不足により火入れが中止され利用放棄されている草地が増えつつある(図1)。火入れ放棄にともなう、生産性につながる群落構造や生物多様性等の機能の変動を明らかにすることは、阿蘇地域の草地生態系の保全と生産性の維持に大きく寄与する。火入れが中止され利用放棄された年数が異なる草地の植生を比較し、火入れ放棄にともなう植生の変化を明らかにすることによって、群落構造や機能に及ぼす火入れの有効性を示す。

成果の内容・特徴

  • 総出現種数は火入れを継続している草地で多く、火入れを放棄した4草地では少なくなり、種多様性の低下が示唆される(表1)。
  • 火入れ継続草地では1年生草種も6種確認されるが、火入れ放棄草地では1~2種と少ない。逆に木本種は放棄30年目の草地では17種と他草地に比べ増大する。また、放棄年数が長くなるにしたがってススキの被度、茎数とも低下する(表1)。
  • 火入れを放棄した草地の立ち枯れは、火入れ継続草地に比べてきわめて多い。また火入れ継続草地にはほとんど存在しないリター(落葉等の地表有機物)も、火入れ放棄草地では多く存在する(図2)。
  • 立ち枯れやリターを除いた地上部現存量には大きな差はみられないが、火入れ放棄年数とともにススキ現存量の比率が低下し、木本現存量の比率が上昇する(図2)。
  • 全地上部現存量は火入れ放棄草地が火入れ継続草地より大きく、とくに火入れ放棄6年目の草地では火入れ継続区のおよそ2.5倍にも達し、可燃物となる立ち枯れとリターが多いことから夏季でも野火の危険性が高い(図2)。

成果の活用面・留意点

  • 阿蘇地域の草地生態系の保全と生産性の維持につながるススキ型草地の維持管理に活用できる。
  • 調査した各草地の標高や地形はやや異なるために、詳細な比較には同一草地の継続調査が望ましい。

具体的データ

図1 .火入れ放棄約30年の草地

 

表1.各草地の植生

 

図2.各草地の地上部現存量

その他

  • 研究課題名:阿蘇久住地域の半自然草地における火入れ等人為圧による植物群落の構造と機能の変動
  • 予算区分:交付金(草地動態)
  • 研究期間:1999~2003年度
  • 研究担当者:山本嘉人、小路敦、平野清、中西雄二、進藤和政、萩野耕司
  • 発表論文等:1)山本ら(2002) 日草誌48:416-420.