ホウ素は植物細胞壁でペクチンを架橋して働く

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要約

植物の必須微量元素であるホウ素の主な働きは、細胞壁でペクチンをラムノガラクツロナンII-ホウ酸複合体の形で架橋して、細胞壁構造を安定化することである。

  • キーワード:ホウ素、ペクチン、ラムノガラクツロナンII
  • 担当:九州沖縄農研・環境資源研究部・土壌資源利用研究室
  • 連絡先:電話096-242-7764、電子メールtmatunag@affrc.go.jp
  • 区分:九州沖縄農業・生産環境(土壌肥料)
  • 分類:科学・参考

背景・ねらい

ホウ素は、植物の必須微量元素であるが、その分子レベルでの機能は不明であった。近年、植物細胞壁中のホウ素は、一分子のホウ酸が二分子のペクチン性多糖ラムノガラクツロナンII単量体(mRG-II)を架橋したラムノガラクツロナンII-ホウ酸複合体(dRG-II-B)の形で存在することが明らかにされた。そこで、植物細胞壁中でのdRG-II-B複合体の役割を検討した。

成果の内容・特徴

  • テンサイ細胞壁をイミダゾール-塩酸抽出すると、ホウ素を含むペクチンが得られる。このペクチンを、ホモガラクツロナン(HG)を分解するエンドポリガラクツロナーゼで処理すると、dRG-II-Bが得られる(図1)。したがって、RG-IIは、細胞壁ペクチンの主成分であるHGと共有結合している。
  • カボチャをホウ素が十分にある培地(25μM)で水耕栽培したとき、葉の細胞壁中RG-IIは、大部分がdRG-II-B複合体である(図2 B+)。一方、ホウ素を除いた培地で栽培したとき、ホウ素欠乏症状を示した葉の細胞壁中dRG-II-B量は減少し、mRG-II量が増加する(図2 B-)。そのホウ素欠乏植物を、10Bラベルしたホウ酸を含む培地に移すと、吸収されたホウ酸は、生成されたdRG-II-B複合体に取り込まれる(図2 B- +10B)。それに伴い、緩んでいた細胞壁構造が引き締まることが観察される(図3)。
  • 以上のことから、ホウ素の主な働きは、細胞壁でペクチンをラムノガラクツロナンII-ホウ酸複合体の形で架橋して、細胞壁構造を安定化することである(図4)。

成果の活用面・留意点

  • ホウ素の栄養診断や施肥法などの開発に役立つ。
  • 種子植物全般に、適用可能である。
  • 架橋とは、鎖状高分子の分子間で、橋を架けるように化学結合を形成させることをいう。

具体的データ

図1 細胞壁から抽出したホウ素を含むペクチンのエンドポリガラクツロナーゼ処理 図2 カボチャ葉細胞壁の酵素分解液のHPLCクロマトグラム

 

図3 カボチャ葉細胞壁の透過電子顕微鏡写真 図4 植物細胞壁におけるホウ素によるペクチン架橋モデル

その他

  • 研究課題名:ホウ素等の植物細胞壁での機能の解明
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:1999~2002年度
  • 研究担当者:松永俊朗、石井 忠(森林総研)
  • 発表論文等:1) Ishii and Matsunaga (2001) Phytochemistry 57: 969-974.
                      2) Ishii et al. (2001) Plant Physiol. 126: 1698-1705.