農耕地土壌での環境ホルモン物質(アルキルフェノールジエトキシレート及びトリエトキシレート)の生成機構の推定

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要約

農薬補助剤として使用されている非イオン系界面活性剤アルキルフェノールポリエトキシレートが環境ホルモン作用がある低重合度のアルキルフェノールジエトキシレートやトリエトキシレートに分解される農耕地土壌がある。より分解活性が高い下水処理汚泥やこれらの土壌から分解菌としてPseudomonas putidaが分離される。

  • キーワード:非イオン系界面活性剤、環境ホルモン、P.putida、下水処理汚泥
  • 担当:九沖農研・環境資源研究部・土微研
  • 連絡先:電話096-242-1150、電子メールkatsuji@affrc.go.jp
  • 区分:九州沖縄農業・生産環境(土壌肥料)
  • 分類:科学・参考

背景・ねらい

非イオン系界面活性剤アルキルフェノールポリエトキシレート(APPEO)は年間23,900トン生産され合成洗剤等に使用されてきている。その内約3.4%が毎年農薬補助剤として様々な農耕地に投入されてきている。この分解物であるアルキルフェノール(AP)や低重合度のアルキルフェノールオリゴエトキシレート(モノエトキシレート、AP1EO; ジエトキシレート、AP2EO;トリエトキシレート、AP3EO)は環境ホルモンとしての危険性が指摘されている。これらの環境ホルモンの農耕地土壌での生成にはPseudomonas putidaの関与が考えられるため、この生成機構を推定した。

成果の内容・特徴

  • 下水処理汚泥中ではAPPEOは48時間で環境ホルモン活性があるAP2EO、AP3EOに分解される(図1)。この汚泥から分解に関与する菌としてP.putidaが分離された。下水処理場には洗剤由来のAPPEOが多量に流入・滞留しており分解菌の汚泥での集積の進行が早いため分解活性が高い。
  • 畑土壌からAP2EO、AP3EOが検出される例がある。この土壌では投与したAPPEO(200ppm)は2週間でAP2EO、AP3EOに分解される(図2)。この土壌からAPPEOをAP2EO,AP3EOへ分解する菌としてPseudomonas sp.が分離される(図3)。また、水田土壌を含む様々な農耕地土壌では分解菌(P.putida)が分離される圃場とされない圃場がある。分離された分解菌は図4の経路でAPPEOをAP2EO、AP3EOに分解する(図4)。
  • 下水処理汚泥の投与歴がない農耕地土壌ではAP2EO、AP3EOは検出されず、APPEOを投与1月後でも全く分解は起こらないし分解菌は分離できない。APPEOの農薬補助剤としての土壌への混入は広域に低濃度(100ppm)であり、開放系であることから分解菌の土壌中での集積の進行は遅いため分解活性は汚泥と比べて低いか無い。

成果の活用面・留意点

  • 下水処理汚泥から分解菌が農耕地土壌に持ち込まれ、これが定着し、補助剤を代謝毒性化している可能性があり、分離したAPEEO分解菌(P.putida)の分解に関与する酵素に選択的なDNAプライマーを用いて起原の特定を行う必要がある。
  • APPEOの分解活性の指標として比較的分析が簡易なオクチルフェノールポリエトキシレートを用いている。使用量が多く位置異性体の混合物であるノニルフェノールポリエトキシレートも同様に農耕地土壌で代謝されていると推察される。

具体的データ

図1.下水処理汚泥中(曝気処理槽の沈殿層)でのAPPEOの分解。活性汚泥中(0.23g)を0.1% TritonXに加え48時間培養後GC分析。

 

図2.畑土壌でのAPPEOの分解 図3.分解菌によるAPPEOの分解

 

図4.P.putidaによるAPPEOからAP2EO,AP3EOの生成

その他

  • 研究課題名:非イオン系農薬補助剤アルキルフェノールポリエトキシレートの農耕地での代謝毒性化の
                      実態解明とリスク評価指標の確立
  • 予算区分:運営費交付金
  • 研究期間:2002~2004年度
  • 研究担当者:渡邊克二・田村廣人(名城大学)・吉川博道・西尾恵理子・市木弥生(九州共立大学)
  • 発表論文等:1) Nishio et al. Isolation of bacterial strains that produce the endcrine disruptor,
                           octylphenol diethoxylates, in paddy field. Biosci.Biotech.Biochem.,66,1792-1798(2002)