和牛血統を考慮した繁殖牛経営最適増頭計画モデルと増頭方策
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要約
多段階線型計画法を用いて、和牛血統による子牛価格差を考慮した繁殖牛経営の最適増頭計画モデルを構築し、子牛価格の予測と優良血統の価格推移パターンに基づくシミュレーションから、新規導入と自家保留によって増頭する際の血統選択方策を示した。
- キーワード:繁殖牛経営、価格予測、和牛血統、多段階線型計画法、増頭方策
- 担当:九州沖縄農研・総合研究部・経営管理研究室
- 連絡先:電話096-242-7695、電子メールbota@affrc.go.jp
- 区分:共通基盤・経営、九州沖縄農業・農業経営
- 分類:技術・参考
背景・ねらい
わが国最大の和牛子牛産地である南九州では、繁殖牛農家戸数の減少により将来の産地維持が危惧されている。そこで、増頭農家の育成を図る目的で、鹿児島県
肝属地区を対象に、家畜市場などの関係機関および増頭志向農家に対する聞き取り調査や収集データに基づき、多段階線型計画法を用いて和牛血統による子牛価
格差を考慮した繁殖牛経営の最適増頭計画モデルを策定する。これにより、和牛子牛価格の将来予測および優良血統の価格推移パターン等に基づくシミュレー
ションを行い、繁殖牛経営の増頭方策を提示する。
成果の内容・特徴
- 策定した増頭計画モデルは、外部資金により計画初年度に雌子牛を導入し、その後、借入資金の返済や家計費充足等の条件を満た
しながら自家保留によって増頭を行う、計画期間9年の動態的モデルである。雌子牛の初期導入および自家保留については、市場で高価格が期待できる優良血統
と平均的な価格水準である普通血統がモデルの中で選択されるように設定した。モデルの営農類型は「繁殖牛+水稲+青果用ダイコン」であり、連動スタンチョ
ン対応の簡易牛舎とコンパクトベーラによる牧乾草を主体とした夫婦2人の繁殖牛経営である。計画初期の繁殖牛飼養頭数は普通血統10頭とした。
- 肝属中央家畜市場における需要関数と供給関数の推定結果から、和牛子牛価格は取引頭数と牛肉輸入量で、また、取引頭数は3年前の取引価格で説明できることが明らかとなった(表1)。これら関数を用いた将来予測では、牛肉輸入量を1998-2000年平均と仮定すると、増頭計画期間の和牛子牛価格は34~35万円水準で推移する(図2)。
- 優良血統の子牛価格推移には、新しい種雄牛の造成やそれに伴う既存種雄牛の相対的市場評価の変化に応じて、常に平均を上回る血統と、徐々に平均価格との差が縮小して数年後には平均を下回る血統が見られる(図1)。
- 図2に
示す4つのパターンの価格推移を前提にシミュレーション分析を行った結果、価格推移1では合計30頭の優良血統が初期導入および自家保留されるが、価格推
移2では1頭、価格推移3と4ではゼロになる。このように、予め導入血統の価格推移が明らかであれば、それに応じた血統選択により、4パターンとも収益水
準は年平均620~630万円と比較的高い収益を得ることができる。
- ところが、計画初期に優良血統を11頭導入し、価格推移4となった場合、年平均収益は約580万円に低下する。また、計画初
期に、新しい種雄牛造成等の影響を受ける優良血統の子牛価格推移パターンを特定することは困難である。このため、新規導入と自家保留によって増頭する際の
血統の選択指針としては、増頭計画開始時点で高い評価を受けている特定の血統のみに集中せず、血統的にバランスのとれた牛群構成にすることが重要になる。
成果の活用面・留意点
- 繁殖牛経営の規模拡大を図る際の指針となる。
- 予測価格は対象市場に固有のものである。
- 増頭シミュレーションの試算にはXLP(中央農研)を用いた。
具体的データ
その他
- 研究課題名:繁殖牛経営における最適増頭計画モデルの策定
- 課題ID:07-01-03-01-03-02
- 予算区分:交付金
- 研究期間:2001~2003年度
- 研究担当者:久保田哲史
- 発表論文等:久保田・紙屋(2003)「肉用繁殖経営展開と自給粗飼料生産」平成15年度飼料増産に関わる現地検討会資料