ニバレノール産生型麦類赤かび病菌における試験研究用菌株の選定

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要約

西日本で分離されたニバレノール産生型ムギ類赤かび病菌について、胞子形成能、病原力および感染コムギ粒におけるマイコトキシン産生性を調査し、胞子形成能が比較的高く病原力の異なる2菌株を、試験研究用菌株として選定する。

  • キーワード:赤かび病菌、ニバレノール、NIV、マイコトキシン、コムギ、オオムギ
  • 担当:九州沖縄農研・地域基盤研究部・病害生態制御研究室
  • 連絡先:電話 096-242-7729、電子メール ymegu@affrc.go.jp
  • 区分:九州沖縄農業・病害虫
  • 分類:科学・参考

背景・ねらい

麦類赤かび病は、穀粒のマイコトキシン汚染を引き起こす重要病害である。赤かび病菌が産生するマイコトキシンとして、デオ キシニバレノール(DON)が従来重要視され、赤かび病防除に向けた試験研究にはDON産生型菌株が広く用いられている。しかし、2002年の調査から、 西日本においては、DONとは毒性が異なるとされるニバレノール(NIV)を培地上でDONより多く産生する菌株(NIV産生型菌株)が優占して分布する ことが明らかとなり、DON産生型だけでなく NIV産生型菌も対象とした赤かび病防除およびマイコトキシン汚染低減技術の開発が早急に求められている。 そこで、西日本で分離されたNIV産生型菌株の中から試験研究用に適した菌株を選定する。

成果の内容・特徴

  • 2002年に西日本で分離され、米培地におけるNIV/DON産生比が15以上であった赤かび病菌Fusarium graminearum 9菌株について、胞子形成能、病原力および感染コムギ粒におけるマイコトキシン産生性を調査し、DON産生型試験研究用菌株であるH3菌株と比較した。
  • マングビーン培地におけるNIV産生型菌株の胞子形成能は、いずれもH3菌株より劣り、H3菌株の1/10~2/3程度である(図1)。
  • オオムギ・コムギにおけるNIV産生型菌株の病原力は、H3菌株の1/2~同程度である1菌株(NIV2)を除き、いずれもH3菌株より高い(図2)。
  • いずれのNIV産生型菌株も、感染コムギ粒においてNIVを産生する。一方、感染コムギ粒におけるゼアラレノン(ZEA:DON・NIVとは生合成系および毒性を異にするマイコトキシン)の産生は、米培地(in vitro 試験)でZEA産生が認められたいずれの菌株でもほとんど認められない(図3)。
  • 以上から、胞子形成能が比較的高く病原力の異なる2菌株、すなわち、病原力の強い NIV7菌株と病原力の弱いNIV2菌株を、試験研究用のNIV産生型赤かび病菌株として選定する。

成果の活用面・留意点

  • 西日本のNIV産生型菌として標準的な病原力を持つ菌株を用いる場合にはNIV7菌株を用い、H3菌株と混合接種を行う場合や、病原力の強い菌株を用いることに問題のある場合にはNIV2菌株を用いる等、目的や状況に応じて菌株を使い分けることができる。
  • 西日本以外では分布するNIV産生型菌の病原力等について情報がないので、病原力の強いNIV産生菌株の野外における使用には注意が必要である。
  • 自然感染のコムギ粒およびオオムギ粒においてZEA蓄積が認められる事例があり、感染ムギ粒におけるZEA産生条件の検討が別途必要である。
  • NIV7とNIV2菌株は農業生物資源ジ-ンバンクに寄託予定であるが、当面、九州沖縄農業研究センター地域基盤研究部が試験研究用に配布する。

具体的データ

図1 マングビーン培地における胞子形成能

 

図2 ポット試験による菌株間の病原力比較

 

図3 各菌株の米培地および感染小麦粒におけるマイコトキシン産生

 

その他

  • 研究課題名:麦類品種におけるマイコトキシン蓄積性の評価法の開発および赤かび病抵抗性の機作別解析
  • 課題ID:07-08-01-*-15-03
  • 予算区分:食品総合
  • 研究期間:2003~2004年度
  • 研究担当者:吉田めぐみ、荒井治喜、中島 隆