寄生性天敵による害虫個体群の増加抑制のための寄生率の算出法

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要約

天敵の寄生によって害虫個体群が増加しない条件を、簡単な一般式で表せる。これに対象とする害虫の世代あたり増殖率を代入することにより、寄生性天敵が害虫個体群を抑制するために必要な寄生率を算出できる。

  • キーワード:寄生性天敵,寄生率,世代あたり増殖率,放飼試験,生物的防除
  • 担当:九州沖縄農研・地域基盤研究部・害虫管理システム研究室
  • 連絡先:電話 096-242-7731、電子メール uranos@affrc.go.jp
  • 区分:九州沖縄農業・病害虫
  • 分類:科学・参考

背景・ねらい

一年生作物上の害虫を対象に寄生性天敵を用いて防除する方法は、放飼試験による試行錯誤を繰り返すことによって技術化され ている。寄生性天敵の放飼試験を設計する際に、生物的防除を成功させる寄生率を事前に知ることは大変有用である。また、少ない反復の試験結果を評価して、 次の試行につなげる際に、実現された寄生率を評価する基準があることが望ましい。そこで、害虫個体群の増加を抑制するために必要な寄生率を理論的に求め る。

成果の内容・特徴

  • 害虫の世代あたり増殖率(R0)と害虫個体群の増加抑制に必要な世代あたり寄生率(必要寄生率)の関係を導くと簡単な形に約される(式1)。
  • 寄主である害虫の世代あたり増殖率(R0)と必要寄生率の関係は、図1のようになる。
  • 実験室データを用いた一般的な事前評価の事例として、キャベツを餌として生育するコナガの必要寄生率と温度の関係を、すでに報告のあるR0の値を用いて計算すると、必要寄生率が温度条件によって変化することが分かる(図2)。

成果の活用面・留意点

  • 初期密度が低く、その後被害許容密度を超える可能性のある害虫に対し、寄生性天敵の放飼試験を設計する際に、式1を用いて事前評価を行うことができる。
  • 寄生性天敵の放飼試験を行った後、計測された寄生率を、式1右辺の値と比較することにより、天敵の放飼効果の事後評価を行うことができる。その際、代入する害虫の世代あたり増殖率(R0)は、なるべく対象とする時期・地域・栽培型の無防除圃場における個体群データから計測されたものが望ましい。
  • 寄生性天敵以外の防除手段を併用するときにも、式1を条件式として用いることができる。その際には、「1-1/R0≦対象寄生者の寄生率+その他の手段による死亡率」が満たされれば、害虫個体群の増加抑制は達成される。
  • 事後評価においては、被寄生個体と健全個体の寿命の違い、移出率の違い、サンプリングしやすさの違い等により、データ上の寄生率が真の寄生率と異なる可能性があるので、充分な吟味が必要である。

具体的データ

式1

 

図1.害虫の世代あたり増殖率(R0)と必要寄生率の関係

 

図2.温度とコナガ個体群抑制に必要な寄生率の関係

 

その他

  • 研究課題名:天敵の行動制御による中山間地域における減農薬害虫防除技術の開発:天敵の最適利用システムの開発
  • 課題ID:07-08-04-01-13-03
  • 予算区分:新事業創出
  • 研究期間:2003年度(2002~2006年度)
  • 研究担当者:浦野知、松村正哉、菅野紘男