サトウキビ属植物の効率的な染色体標本作製法

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要約

数が多く、サイズが小さいサトウキビ属植物の染色体を、精度良く観察する方法を開発した。根端組織を酵素解離し、プレパラート上で蒸気を当てた後に温熱乾燥処理することで、良好な染色体観察標本を作製することができる。

  • キーワード:九州沖縄農研・作物機能開発部・さとうきび育種研究室
  • 担当:九州沖縄農研・畜産飼料作研究部・環境生理研究室
  • 連絡先:電話0997-25-0100、電子メールq_seika@ml.affrc.go.jp
  • 区分:九州沖縄農業・畑作、作物・夏畑作
  • 分類:科学・参考

背景・ねらい

サトウキビ属植物は高次倍数性で染色体数が多く、製糖用品種の染色体数は2n=100-130である。染色体のサイズも小さいことから、明瞭な染色体像を得るためには熟練した技術と経験が必要である。種間交雑や倍数性の高い作物の育種では、染色体数やゲノムの構成を正確に把握する必要があるが、サトウキビにおいては染色体観察が容易でないことから、染色体情報は育種の現場で活用されることが少なかった。そこで、育種の現場での活用が容易で良好な染色体標本を、安定的に得るための効率的な方法を開発する。

成果の内容・特徴

  • サトウキビの種苗を水で湿らせた紙に包み、室内で発根させ、2~3cmに伸びた根を用いる。根端は冷水処理により前中期染色体を蓄積させ、固定した後、保存する(図1)。
  • 酵素解離した根端をスライドガラスに移し、固定液Bを滴下し、ピンセットで細かく潰す。固定液が乾燥を開始したときに、スライドガラスの試料側に蒸気をあて、アルミブロック恒温槽で急速に乾燥させると、染色体観察のための良好な標本ができる(図1)。
  • 酵素液の組成は2% w/v Cellulase Onozuka RS, 1% w/v Macerozyme R200, 0.3% w/v Pectolyase Y-23, 10mM citrate buffer, pH 4.8が適している。
  • この処理により染色体同士の重なりが少なくなり、明瞭に区別できる標本が安定して得られる。染色体標本の直径は従来の風乾法と比較して、約10%拡がる。(図2、表1)。
  • 従来法は室温や湿度条件に影響されやすく、観察に適した標本の作製には熟練を要したが、本法によって比較的容易に標本が作製できるようになる。

成果の活用面・留意点

  • 蒸気および温熱乾燥処理は、処理時間を守ることが必要である。
  • 本手法は、サトウキビ属以外にも、染色体が小さく高次倍数性を示す作物の染色体観察に適用できる。

具体的データ

図1 温熱乾燥処理の概要

 

図2 風乾法と温熱乾燥処理により作成した染色体標本

 

表1 風乾法と温熱乾燥処理により作成した染色体標本の直径の差異

その他

  • 研究課題名:新たな機能開発のためのサトウキビ遺伝資源の収集・保存と生育特性の解明
  • 課題ID:07-07-02-02-14-04
  • 予算区分:交付金、ジーンバンク
  • 研究期間:2001~2004年度
  • 研究担当者:福原誠司、寺島義文、杉本 明、氏原邦博、伊禮 信、境垣内岳雄、松岡 誠
  • 発表論文等:Fukuhara et al. (2004) Jpn. J. Trop. Agric. 48: 194-197.