液状家畜ふん尿に由来する病原性細菌等の非土壌性細菌の畑土壌での動態

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要約

液状家畜ふん尿連用土壌のペプトン-ポリミキシン培地で計数される菌群は液状家畜ふん尿(600t/ha 年) 投入直後に増加し、液状家畜ふん尿から持ち込まれた動物由来の非土壌性細菌、病原性細菌、糞便性大腸菌群を含み2ヶ月間は土壌中に生存している。

  • キーワード:液状家畜ふん尿、過剰投与、大腸菌群、ペプトン-ポリミキシン培地
  • 担当:九州沖縄農研・環境資源研究部・土壌微生物研究室
  • 連絡先:電話096-242-7768、電子メールkatsuji@affrc.go.jp
  • 区分:九州沖縄農業・生産環境(土壌肥料)
  • 分類:科学・参考

背景・ねらい

近年家畜排泄物に加え、下水処理汚泥や食品残渣等様々な生物系廃棄物に由来するコンポストが農耕地土壌へ投入される傾向にある。これに含まれる病原性細菌の危険性が指摘されてはいるが、これらの有機質資材に含まれる微生物は多岐にわたるため、分離菌株の接種による消長の試験からではその実態は解明できていない。当センターではこれまでに20年間液状家畜ふん尿を過剰投入した畑土壌(600t/ha 年)から病原性細菌 (Serratia marcescens )や糞便性大腸菌群(E.coli/Salmonella 属細菌)を分離してきており、ここでは液状家畜ふん尿から持ち込まれるこれらの外来微生物の実態を解明する。

成果の内容・特徴

  • ペプトン-ポリミキシン培地で計数される菌群は化学肥料連用土壌、未作付け土壌中ではBacillus属細菌であるが、20年間液状家畜ふん尿を過剰(600t/ha 年)に投入した土壌では抗生物質ポリミキシンBに耐性を有する非Bacillus 属細菌であり(表1)、液状家畜ふん尿の投入直後に7.7倍に増加し(6.45x108 CFU/g乾土)、全細菌数(7.3x108 CFU/g乾土)と同程度となる(図1)。
  • 投入量に従い動物由来と特定できる非土壌性細菌 (Brochothrix 属, Desulfovibrio 属, Rothia 属) や、 病原性細菌(Mycobacterium 属, Brucella 属)及び糞便性大腸菌群(Vibrio 属, Obesumbacterium/Hafnia 属, E.coli )の割合が増加する(0t区 0%、 120t区 7.5%、600t区 21.9%)。
  • 同土壌では、マッコンキー寒天培地やデスオキシコレート寒天培地で計数される大腸菌群数も同様に液状家畜ふん尿の投入量に比例し増加する(図2)。また本土壌からはエキソトキシンA遺伝子、セラチアプロテアーゼ遺伝子等の病源性遺伝子が直接検出され分離菌からも同遺伝子が検出されており、液状家畜ふん尿を過剰に投入した土壌では家畜ふん尿から持ち込まれた病原性細菌や糞便性大腸菌群等の非土壌性細菌が2ヶ月間は生息している。

成果の活用面・留意点

  • 新鮮な家畜ふん尿を継続的に過剰投入した圃場での試験結果であり、長期貯留後の液状きゅう肥又は堆肥の投入については別途検討が必要となる。
  • ポリミキシンBは飼料添加物として認可されているバシトラシン、コリスチンと同じBacillus 属細菌由来のポリペプチド系抗生物質であり、主にグラム陰性菌による感染症治療に用いられている。常に検出される土壌細菌由来の遺伝子群(NosZ, Lec )と異なり、これら病原性遺伝子群は検出される年が限られており、危険性については別途詳細な検討が必要となる。
  • 培養困難な菌相も含めた解析では、これらの増殖が早い細菌群のみを捉えることが困難で、詳細な動態解明にはこれらの分離割合(約40%)が高いマッコンキー寒天培地やデスオキシコレート寒天培地に抗生物質を投与し、安全に菌相解析できる手法の確立が必要となる。

具体的データ

図1.液状家畜ふん尿の投与による全細菌数(AA)と全ポリミキシン耐性菌数(PP)の変動。 表1.ペプトン-ポリミキシン培地で分離された細菌(152株)の分類。
図2.液状家畜ふん尿投与2ヶ月後の糞便性大腸菌群数。

その他

  • 研究課題名:非イオン系農薬補助剤アルキルフェノールポリエトキシレートの農耕地での代謝毒性化の実態解明と
                      リスク評価指標の確立
  • 課題ID:07-06-02-02-07-04
  • 予算区分:運営費交付金
  • 研究期間:2002~2004年度
  • 研究担当者:渡邊克二・奥田 充・新美 洋・古賀伸久(現北海道農研)・境 雅夫(九州大学農学部)
  • 発表論文等:1) 渡邊ら (2004) 2004年度日本土壌微生物学会講演要旨集. p.13.
                      2) 渡邊ら (2003) Can.J.Microbiol.49, 305-312.