ダム上流域の降雨-流出現象を考慮した水資源貯留量指標とその算定例

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要約

「利水貯留量」及び「地下貯留変化量」は、年ごとに変動する降雨量、蒸発散量ならびに流出現象を含む水資源量であり、ダムの水資源量の指標となる。これらを下流域への安定的な水環境形成のためのダムの管理・運用へ活用できる。

  • キーワード:かんがい用ダム、ダム上流域,流域の水環境、利水貯留量、地下貯留変化量
  • 担当:九州沖縄農研・環境資源研究部・資源評価研究室
  • 連絡先:電話096-242-7767、電子メールharaguch@affrc.go.jp
  • 区分:九州沖縄農業・生産環境(土壌肥料)
  • 分類:行政・参考

背景・ねらい

かんがい用のダム(以下、「ダム」という)は農地への用水供給を通じ、ダム下流域の水環境形成に多大な寄与をしている。誤ったダムの管理・運用は、水資源量を減少させ、ダム下流域の水環境へ多大な影響を及ぼすため、適切な水資源量の指標の下での管理・運用が必要である。ダムの総貯水容量は水資源量の指標の一つであるが、この指標には年による降雨量や蒸発散量の変動が考慮されておらず、十分とは言えない。現実のダムの貯水量を規定する要因は、ダム上流域における降雨-流出現象であることから、これを考慮したダムの水資源量の指標を提案するとともに、これを九州各地のダムに適用して、ダムの適正な管理・運用、ひいては下流域の水環境の安定化に資する。

成果の内容・特徴

  • ダム上流域における降雨-流出現象を考慮した水資源量の指標
    三野(1994)および堀野ら(2001)により提案された「利水貯留量」、「地下貯留変化量」をダム上流域に適用し、ダムの水資源量の指標として提案する。「利水貯留量」は、降雨-流出現象を通して、ダム上流域がダム貯水池に水を安定的に供給するために潜在的に有する貯留量であり、「地下貯留変化量」は、日単位でダム上流域の地下に貯留(または放出)される量である。
  • 「利水貯留量」、「地下貯留変化量」の算定法
    (1)「利水貯留量」:ダム管理データより、ダム上流域からダムへ供給される最小水量の時系列(図2のSQ)を描き、その曲線の原点を通る接線(図2のm)を描く。このとき、接線mの勾配は、ダムへ流入する最小流量(正の値)を表す。次に、ダム上流域における降雨量から蒸発散量を差し引いた量の時系列(図2のSRE)を描き、この曲線に最小流量と同じ勾配を持つ接線(図2のk)を描くとき、これが縦軸と交わる点と原点との距離が「利水貯留量」である(図1、図2)。「利水貯留量」は、降雨量から蒸発散量を差し引いた時系列が負である時期(無降雨時期)においても、最小流量が常に正である(ダムへの供給がある)ことのギャップを埋める容量に相当する。
    (2)「地下貯留変化量」:ダム管理データおよびアメダスデータより、(日降雨量R-日蒸発散量ET-ダム上流域からダムへ供給される日流量Q)を日ごとに計算する(図1)。
  • 日単位の「地下貯留変化量」を時系列で図示することにより、ダムへの供給量の増減の状況を逐次把握できる(図3)。
  • 表1は、九州各地域における主要なダムの「利水貯留量」の算定結果であり、多くのダムにおいて、「利水貯留量」がダムの総貯水容量全体に占める割合が50%を越えていることが示される。「利水貯留量」は、無降雨時にもダム上流域からダムへの水供給を保障する指標であるため、今後堆砂等により、ダムの総貯水容量が「利水貯留量」を下回らないよう、適切に管理していく必要性が示唆される。

成果の活用面・留意点

  • 利水貯留量の算定のためには、5年分程度のデータを整えることが望ましい。
  • ダム管理・運用上の判断材料として利用することを目的に、管理所では常に図3の貯留量時系列の形式でデータを整理・蓄積しておくことが有効である。

具体的データ

図)

その他

  • 研究課題名:農村流域における水資源貯留量の評価法の開発
  • 課題ID:07-06-04-*-03-03
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2001~2003年度
  • 研究担当者:原口暢朗、塩野隆弘、宮本輝仁、樽屋啓之(現農工研)
  • 発表論文等:1) 桐他 (2001) 農土学会講要, 68-69.
                      2) 樽屋他 (2001) 国営土地改良事業地区計画調査(笠野原地区)報告書