温州萎縮ウイルスおよび近縁ウイルスの分類学的位置

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要約

カンキツの重要ウイルスである温州萎縮ウイルス(SDV)は、新たに設立されたサドワウイルス属の代表種である。従来、SDVの近縁種とされたカンキツモザイクウイルス、ナツカン萎縮ウイルス、ネーブル斑葉モザイクウイルスは、SDVの系統である。

  • キーワード:カンキツ、ウイルス病、温州萎縮ウイルス、トラミカン、ウイルス分類学
  • 担当:九州沖縄農研・地域基盤研究部・病害遺伝子制御研究室
  • 連絡先:電話096-242-7730、電子メールtiwsw37@affrc.go.jp
  • 区分:九州沖縄農業・病害虫、共通基盤・病害虫(病害)
  • 分類:科学・普及

背景・ねらい

温州萎縮ウイルス(SDV)はウンシュウミカンなどに激しい萎縮症状を起こし、また土壌伝染する難防除ウイルスである。SDVは性状の解明が遅れ、分類学上の位置が不明確で、ネポウイルス属の暫定種とされる。そこで、SDVおよび近縁種とされるカンキツモザイクウイルス(CiMV)、ナツカン萎縮ウイルス(NDV)、ネーブル斑葉モザイクウイルス(NIMV)の塩基配列と遺伝子構造を明らかにし、ネポウイルス属などと比較検討して、分類的位置を決定する。

成果の内容・特徴

  • SDVの遺伝子構造は、RNA1にNTP結合ヘリカーゼ、プロテアーゼ、RNA依存性RNAポリメラーゼのモチーフ が、RNA2に細胞間移動関与タンパク質のモチーフと外被タンパク質遺伝子がそれぞれ5'から3'の方向に並んでいる点で、ネポウイルス属のトマト輪点ウイルス(ToRSV)やコモウイルス属のカウピーモザイクウイルス(CPMV)に類似している。しかし、外被タンパク質が2成分であることで、ネポウイルス属ToRSVとは区別される。また、コモウイルス属には認められない5'共通タンパク質を持つので、CPMVとも識別される(図1)。
  • RNA依存性RNAポリメラーゼの保存領域のアミノ酸配列から作成した系統樹で、SDVはコモウイルス属やネポウイルス属のウイルスとは、クラスターを形成せず、独自の分岐をする(図2)。
  • SDV、 CiMV、NDV、NIMVの外被タンパク質の42K成分、22K成分のいずれも互いに77%から92%の相同性を示す(表1)。
  • 以上のことから、SDVは既報のどのウイルス属とも異なる新属(サドワウイルス属)の代表種で、CiMV、NDV、NIMVはSDVの系統として、分類される。

成果の活用面・留意点

  • サドワウイルス属は、第8次国際ウイルス分類委員会報告に正式な属として承認、記載されている。
  • サドワウイルス属には、外国で性状が解明されたStrawberry latent ringspot virusStrawberry mottle virus が含まれる。
  • サドワウイルス属ウイルスの種の分類基準は生物学的、血清学的性状と外被タンパク質42K成分のアミノ酸配列の相同性(75%)である。
  • サドワウイルス属は特定の科に所属しない。

具体的データ

図1 SDV(サドワウイルス属)、ToRSV(ネポウイルス属)、CPMV(コモウイルス属)の遺伝子構造の比較

 

図2 RNA依存性RNAポリメラーゼの保存領域のアミノ酸配列から作成した系統樹。

 

表1(a) 外被タンパク質42K成分のアミノ酸配列の相同性(%)

 

その他

  • 研究課題名:高感度・周年・大量検定法の開発
  • 課題ID:07-08-01-05-24-05
  • 予算区分:高度化事業
  • 研究期間: 2004∼2006年度
  • 研究担当者: 岩波 徹、奥田 充、久保田健嗣
  • 発表論文等: Le Gall, O., Iwanami, T., Karasev, A.V., Jones, T., Lehto, K., Sanfacon, H.,Wellink, J., Wetzel, T., and Yoshikawa, N. (2005). Genus Sadwavirus. Virus Taxonomy, 8th Report of the International Committee on Taxonomy of Viruses (Fauquet, C. M., Mayo, M. A., Maniloff, J., Desselberger, U., and Ball, L. A. (eds). Elsevier AcademicPress, (California), pp.799-802.