ムギ類赤かび病防除薬剤の再散布が必要な降雨条件

※アーカイブの成果情報は、発表されてから年数が経っており、情報が古くなっております。
同一分野の研究については、なるべく新しい情報を検索ください。

要約

チオファネートメチル(商品名:トップジンM)水和剤では散布後30分以降の降雨ならば防除効果の低下は少ない。粉剤では降雨強度が防除効果に強く影響し、弱い雨が2∼3時間程度ならば再散布は必要ないが、強い雨があった場合は、直ちに再散布する。

  • キーワード:ムギ、農薬、耐雨性、かび毒、デオキシニバレノール、ニバレノール
  • 担当:九州沖縄農研・地域基盤研究部・上席研究官
  • 連絡先:電話096-242-7728、電子メールntakashi@affrc.go.jp
  • 区分:九州沖縄農業・病害虫
  • 分類:技術・参考

背景・ねらい

赤かび病の発生には降雨が深く関係しているため、多発年の防除は降雨の合間に行われることになる。しかしながら、「午前中に農薬散布を行ったが、午後から雨が降った。再散布を行うべきか?」という農家の切実な疑問に答える科学的根拠がないのが現状である。また、農薬の耐雨性の評価は 発病度を評価基準にしてきたが、かび毒(マイコトキシン)の暫定基準に対応するため、デオキシニバレノール(DON)やニバレノール(NIV) の汚染濃度を基準にした評価が必要である。このため、かび毒低減効果が高く、最も広く普及している防除薬剤であるチオファネートメチル(商品名:トップジンM)を対象に、発病とかび毒汚染に対する耐雨性を評価し、再散布が必要な降雨条件を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • トップジンMの耐雨性を同一条件で比較した場合、ゾル剤>水和剤>粉剤の順である。無人ヘリコプター用のゾル剤は散布6時間後において100mm(50mm/h:2時間)の激しい雨に当たっても発病度及びかび毒に対する効果がほとんど低下しない(2003年データ略)。
  • 水和剤の散布直後に降雨処理した場合は、発病度及びかび毒濃度ともに防除効果が低下するが、降雨までの時間を置くほど防除効果が高くなる(表1(2005年),2004年データ略)。このことから、散布直後に強い雨(25mm/hが2時間)があった場合は、直ちに再散布する必要があるが、30分以上経過した場合は必要ない。
  • 粉剤では散布1時間後に弱い雨(3.6mm/h)処理を3時間(降雨量10.8mm)施した区が降雨を受けない区よりも防除効果が向上するが、同じ降雨量でも強い雨(25mm/h)の場合は防除効果が低下する(表2(2005年),2004年データ略)。このことから、粉剤では弱い雨(3.6mm/h)が2∼3時間程度ならば撒き直す必要がないが、強い雨(25mm/h)があった場合は、短時間(20分程度)でも直ちに再散布する必要がある。

成果の活用面・留意点

  • 本成果は植物体に与えるエネルギーを自然降雨とほぼ同じ状態に再現可能な人工降雨実験施設を用いていることから、農業現場への適応性が高い。
  • トップジンM粉剤はドリフト(漂流・飛散)を抑制する目的で新たに開発され登録申請中のトップジンMDL粉剤に今後置き換わる予定である。トップジンMDL粉剤についても同様の試験を複数年行っているが、耐雨性はトップジンM粉剤と同等である。
  • 平成17年10月よりトップジンMは剤型を問わず出穂期以降は小麦、大麦ともに1回のみに使用基準が変更になったため、再散布には他の薬剤を用いなければならない。

具体的データ

表1 トップジンM水和剤の防除効果に及ぼす散布から降雨までの時間の影響

 

表2 トップジンM粉剤の防除効果に及ぼす降雨強度と時間の影響

 

その他

  • 研究課題名:穀類の毒素蓄積プロセスと薬剤の特性解明に基づくマイコトキシン汚染低減薬剤防除技術の高度化
  • 課題ID:07-08-01-04-35-05
  • 予算区分:食品総合
  • 研究期間:2003∼2005年度
  • 研究担当者:中島 隆、冨村健太(現:酒類総研)、吉田めぐみ