Arrhenius式に見かけ上従わない水稲発芽時間における温度依存性の解析法

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要約

水稲発芽時間において、温度の影響がArrhenius式に見かけ上従わない場合でも、独立な複数の律速反応を想定し、それぞれの律速反応がArrhenius式に従うと仮定すれば、温度域を区切ることなく、安定した温度依存性の特性値を求められる。

  • キーワード:Arrhenius式、温度依存性、律速反応、発芽、時間、温度、活性化エネルギー
  • 担当:九州沖縄農研・水田作研究部・水田土壌管理研究室
  • 連絡先:電話0942-52-0681、電子メールyshara@affrc.go.jp
  • 区分:九州沖縄農業・生産環境(土壌肥料)、共通基盤・土壌肥料
  • 分類:科学・参考

背景・ねらい

水稲直播栽培において苗立ちの安定化が重要である。苗立ちは初期生育との関連が深く、温度は初期生育に大きな影響を与えるため、初期生育における温度の影響を把握することが重要である。単純な化学反応では温度が変化したときの速度変化がArrhenius式に従うが、水稲の初期生育など複雑な生物応答の時間はArrhenius式に見かけ上従わない場合がある。そこで、ここでは、比較的単純な初期生育である発芽の時間(速度)におい て、Arrhenius式に見かけ上従わない場合における解析法を検討する。

成果の内容・特徴

  • Arrhenius式による解析では、律速反応(速度が遅く、全体の速度を支配する反応)が1つであることを前提と するが、複雑な反応の集合体と考えられる生物応答では1つとみなせない場合が考えられるため、複数の律速反応を想定する。複数の律速反応が独立ならば、全 体の反応時間を全律速反応の時間の合計とみなせることから、全体の反応時間の温度変化を表す「累積時間式」が誘導できる(図1)。
  • 独立な複数の律速反応を想定した累積時間式は、必要に応じて律速反応数を増やすことができ、個々の律速反応の前後関係を特定する必要もなく、さらに活性化エネルギーが等しい可逆反応の平衡式など幾つかの反応機構を表現できる(図2)。このように汎用性が高いため、反応機構を不明としたまま温度依存性を解析する際に適する。
  • パソコン(Excel Solver等)を用いて累積時間式を測定値に当てはめれば、温度による影響程度を表す活性化エネルギー(E)と温度に影響しない成分(A・c:頻度因子(A)と濃度因子(c)の積)が律速反応毎に定量化され、より詳細な解析に利用できる。
  • 水稲発芽時間に対する温度影響の解析において、温度域を区切って個別のArrhenius式で解析する従来法では、明確な折れ点が得られず、当てはまりも悪く、特性値の算出精度も低い(図3)。提案法で解析すると、2個の律速反応を想定することによって、温度域を区切る必要が無く、精確に当てはまり、活性化エネルギーの値も安定する。

成果の活用面・留意点

  • 正常に発芽する(反応経路が変わらないと考えられる)温度域において利用できる。
  • 累積時間式の律速反応数は必要に応じて自由に増やすことができるが、残差解析やAIC(赤池の情報量基準)等を参考に必要最小数としなければならない。

具体的データ

図1 累積時間式の誘導 図2 累積時間式を説明するモデル 図3 水稲の発芽時間における適用例

その他

  • 研究課題名:水稲種子生産時の窒素施肥による苗立ち向上要因の解明
  • 課題ID:07-01-05-01-10-05
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2002∼2005年度
  • 研究担当者:原嘉隆、土屋一成、中野恵子、草佳那子
  • 発表論文等:Hara(2005) Plant Prod. Sci. 8(4):361-367.