抗酸化物質の添加は、高温感作されたウシ初期胚の発生率低下を防止する

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要約

培養液へ抗酸化物質の添加は高温ストレスによるウシ初期胚内の活性酸素の増加を抑え、胚盤胞期への発生率の低下を防止する。

  • キーワード:培養初期胚、抗酸化物質、高温感作、活性酸素、牛
  • 担当:農研機構・九州沖縄農研・暖地温暖化研究チーム
  • 連絡先:電話 096-242-1150、電子メール msaka@affrc.go.jp
  • 区分:九州沖縄農業・畜産草地(大家畜)、畜産草地
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

夏季の高温環境は初期胚発生や生殖細胞レベルで悪影響を及ぼし、細胞内活性酸素の増加に伴って発生初期胚の死滅を引き起こす。高温に曝された動物の卵管・子宮では活性酸素が増加し、初期胚の発育性も低下するが、これらの悪影響は生体内の胚発育環境を変えることで改善されると考えられる。近年、様々な抗酸化物質の活性酸素除去能力や健康増強作用が研究されており、抗酸化物質を用いた生体内の胚発育環境の改善が夏季における繁殖性低下を防止することが期待される。
そこで、抗酸化物質として還元剤であるβ-メルカプトエタノールおよび九州地方で栽培されその抗酸化性について研究が行われている紫サツマイモ(アヤムラサキ)由来アントシアニンを用い、体外培養系にて培養液へ抗酸化物質を添加することによる胚発育環境の改善が高温感作した初期胚の発生に及ぼす影響を検討し、高温環境下における繁殖性の低下を防止する基礎的知見を得ることを目的とする。

成果の内容・特徴

  • 牛体外受精胚を抗酸化物質である紫サツマイモ(アヤムラサキ)由来アントシアニン(AC)0.1, 10mg/ml、あるいはβ-メルカプトエタノール(bME)10, 50mMを含む培養液にて発生培養を行う。
  • 高温感受性の最も高い発生培養開始2日目に41℃ 6時間の高温感作を行った後38.5℃に戻して8日目まで5%の低酸素気相下にて培養を行った際の胚盤胞期への発生率は、抗酸化物質を添加することで無添加区と比較して有意に上昇する(図1)。
  • 高濃度の抗酸化物質添加では胚の発生率改善効果は認められない(図1)。
  • 胚盤胞胚における総細胞数は、b-ME添加により有意に増加し、AC添加でも増加する傾向が認められる(図2)。
  • 高温感作直後に測定した胚の活性酸素量は、抗酸化物質の添加により有意に抑えられる(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 高温ストレスに伴って初期胚が受ける酸化ストレスとその防御方法を研究する上での基礎データとなる。
  • 本成果は、CR1aaに5%の牛胎子血清を添加した培養液を利用した結果である。異なる培養液や血清濃度で用いる場合は、事前の抗酸化物質濃度の検討が必要である。

具体的データ

図1 抗酸化物質の添加が高温処理胚の発生率に及ぼす影響

図2 抗酸化物質の添加が高温処理胚の胚盤胞細胞数に及ぼす影響

図3 抗酸化物質の添加が高温処理胚の活性酸素量に及ぼす影響

その他

  • 研究課題名:暖地・温暖地における気候温暖化等環境変動に対応した農業生産管理技術の開発
  • 課題ID:215-a
  • 予算区分:科研費
  • 研究期間:2004~2006年度
  • 研究担当者:阪谷美樹