熊本県白川中流域の転作田への夏季の水張りは地力を増進させる

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要約

白川中流域の営農の一環として行われる転作田への夏季の水張りにより落水後は土壌肥沃度が増大し、夏まきニンジンを無肥料で栽培できる。脱窒により地下浸透水の硝酸態窒素濃度は低下する。

  • キーワード:白川中流域、湛水、地下水涵養、地力、転作田、ニンジン
  • 担当:九州沖縄農研・土壌環境指標研究チーム
  • 連絡先:電話096-242-1150、電子メールarakawa.yusuke@affrc.go.jp
  • 区分:九州沖縄農業・生産環境(土壌)、共通基盤・土壌肥料
  • 分類:行政・参考

背景・ねらい

白川中流域の水田地帯は熊本市圏の地下水の主要な涵養域である。熊本市は白川中流域の大津町、菊陽町らと地下水保全協定を結び、夏まきニンジンやダイズの作付け前に営農の一環として転作田に水張りを実施する地元農家に対し助成金を支払う事業を開始した。一方、事業に参加している地元農家からは湛水に伴う養分の溶脱による地力の低下の懸念が表明されている。そのため5月~7月の夏季3ヶ月間の湛水が土壌肥沃度に及ぼす影響について検討する。

成果の内容・特徴

  • 湛水する前に比べて作土の交換性塩基含量は増加する(表1)。交換性石灰・苦土の増加量は苦土石灰換算で約300kg/10aである。これは灌漑水には小林(1960)により報告された九州43河川の平均値(Ca;10 mg/L、Mg;2.7 mg/L、K;1.84 mg/L)を大きく上回る濃度のカルシウム(Ca; 25.3 mg/L)、マグネシウム(Mg; 6.86 mg/L)、カリウム(K;6.29 mg/L)が含まれ、これら塩基の天然供給力が多いことによると考えられる。
  • 湛水する前に比べて作土の硝酸態窒素(図1)、培養後無機態窒素、可給態リン酸(表1)は維持ないし増加する。これは、田面に藻類が繁茂することや畑状態に比べて有機物の消耗が抑制されること等によると考えられる。
  • 湛水開始1日後の土壌水の硝酸性窒素(NO3-N)濃度は、水口付近で7.3 mgL-1、水尻付近で7.4 mgL-1と灌漑水より大きいが、その後は脱窒により、土壌水のNO3-N濃度は、灌漑水の濃度を下回る(図2)。圃場からの硝酸態窒素溶脱による地下水の硝酸性窒素の正味の富化は無いかきわめて小さい。
  • 夏季湛水し落水した圃場では、無肥料で夏まきニンジンを栽培可能である。収量は、10kg入りダンボール629 箱(6.7トン)/10aと目標収量(4~5トン)を達成し、隣接する圃場の収量407箱(4.1トン)/10a(水張りをせず、試験圃場と同様無肥料でニンジンを栽培)よりも大きい。規格別収量は市場での評価の高いL、M規格の収量が大きい(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 湛水期間は代掻きをし、灌漑水をかけ流しした。流入量は500mm/日、それに対して流出量は240mm/日であった。
  • 大津町から菊陽町にかけての白川中流域に適用する。
  • 他地域への適用では、河川水に含まれる塩基類が少ない場合、土壌中の塩基類の溶脱のおそれがあるため注意を要する。

具体的データ

表1 湛水圃及び隣接圃の作土の養分含量(mg/100g)

図1 湛水前後の土壌の硝酸態窒素含量(湛水3年目の転作田)図2 湛水期間中の灌漑水と土壌水のNO3-N濃度

図3 落水後無肥料で夏まきニンジンを栽培した時の規格別箱数(10kg箱/10a)

 

その他

  • 研究課題名:有機質資材多投入地帯における合理的な資材施用のための土壌環境指標及び土壌管理技術の開発
  • 課題ID:214-q.2
  • 予算区分:基盤
  • 研究期間:2005~2006年度
  • 研究担当者:荒川祐介・山本克巳