多収で難穂発芽性の初の春播き栽培向けそば新品種「春のいぶき」

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要約

そば「春のいぶき」は西南暖地の春に播種して初夏に収穫する春播き栽培に適する初めての育成品種である。子実重は「しなの夏そば」より多く、穂発芽は「しなの夏そば」より少ない。食味は良く、前年北海道産「キタワセソバ」より優れる。

  • キーワード:そば、夏栽培、春播き栽培、穂発芽
  • 担当:九州沖縄農研・南西諸島農業研究チーム
  • 連絡先:電話096-242-1150
  • 区分:九州沖縄農業・畑作、作物
  • 分類:技術・普及

背景・ねらい

九州地域において、台風被害の回避と夏期における新そば提供を同時に実現するそばの新しい作型の導入が強く求められている。九州 の海岸地帯や南部地帯は温暖なために、春に播種して初夏に収穫する作型(春播き栽培)が可能であるが、これまでに春播種用のそば品種は育成されていない。 しかし、九州在来種は秋型であり、春播き栽培において子実収量が著しく低い。一方、夏型の既存品種は多収ではあるが降雨により穂発芽しやすい。そこで、九 州平野部の春播き栽培において、多収でかつ難穂発芽性の品種を育成する。

成果の内容・特徴

  • 「春のいぶき」は平成13年より九州沖縄農業研究センター(熊本)において、多収で難穂発芽性の春播き栽培向け品種の育成を目標として、中間夏型で多収性の「階上早生」から集団選抜法により選抜と固定を行って育成した品種である(図1)。
  • 生態型は“中間夏型”である。開花期は“やや早”で「しなの夏そば」、「階上早生」と同程度かやや遅い。成熟期は“やや早” で「しなの夏そば」、「階上早生」よりやや遅い。主茎長は「しなの夏そば」より長く、「階上早生」と同じである。子実重は「鹿屋在来」、「しなの夏そば」 より多く、「階上早生」よりやや多い(表1)。
  • 圃場での穂発芽は、「しなの夏そば」、「キタワセソバ」、「階上早生」より少なく、降雨後のそば粉の最高粘度は「しなの夏そば」、「キタワセソバ」、「階上早生」より高い(図2)。
  • 容積重は「しなの夏そば」より重く、「階上早生」と同じである。製粉歩留りは「しなの夏そば」と同程度であり、「階上早生」よりやや低い。千粒重は「しなの夏そば」より低く、「階上早生」と同程度である(表1)。
  • 「春のいぶき」の食味は、前年北海道産「キタワセソバ」より優れ、春播き栽培された「キタワセソバ」との比較では同程度かそれ以上である(表2)。

成果の活用面・留意点

  • 九州地域の春播き栽培用品種として、鹿児島県で50ヘクタール、熊本県で10ヘクタール、大分県で20ヘクタール作付け予定である。
  • 南西諸島では晩秋に播種して1月に収穫する作型が可能であり、九州地域では従来の秋栽培型も可能である。
  • 春播き栽培では梅雨期前に収穫できるように、晩霜の危険がなくなったら、速やかに播種する。
  • 湿害に対しては既存品種と同様に被害を受けやすいので、明渠などの排水対策を行う。
  • 成熟期を過ぎると脱粒数が増加し、穂発芽が発生しやすくなるので、適期に収穫する。
  • 春播き栽培は九州の高冷地で夏栽培されている作型と異なる。

具体的データ

図1 「春のいぶき」の子実

 

表1 育成地および鹿児島県における生育、収量

 

図2 穂発芽粒率とそば粉の最高粘度

 

表2 食味官能試験

 

その他

  • 研究課題名:九州沖縄地域における耕地の高度利用に適する早生安定多収そば系統の開発
  • 課題ID:214-v
  • 予算区分:基盤
  • 研究期間:2001~2007年度
  • 研究担当者:原貴洋、松井勝弘、手塚隆久
  • 発表論文等:
    1)Hara T. et al. (2007) Plant Prod. Sci. 10(3):361-366
    2)Hara T. et al. (2008) Plant Prod. Sci. 11(1):82-87
    3) 原ら (2008) 日作紀 77(2):151-158