スクミリンゴガイは低温順化や非湛水条件により冬期に耐寒性が高まる

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要約

スクミリンゴガイは越冬時に耐寒性が高まる。耐寒性は、非湛水条件や低温順化処理によって高まる。

  • キーワード:スクミリンゴガイ、耐寒性、低温順化
  • 担当:九州沖縄農研・九州水田輪作研究チーム、難防除害虫研究チーム
  • 連絡先:電話096-242-7732
  • 区分:九州沖縄農業・病害虫、九州沖縄農業・水田作
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

スクミリンゴガイは西日本を中心にイネの重要害貝となっている。本種は1980年代に南米から台湾を経由して日本に導入された種 であり、国内での定着の背景には温帯の気候、とくに冬期の寒さに対する本種の高い適応能力が考えられる。そこで、野外におけるスクミリンゴガイの耐寒性の 季節変化を調査するとともに、本種の耐寒性向上に影響する環境条件を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 野外の水田から採集したスクミリンゴガイ幼貝(殻高:7.5~17.5mm)を0℃に5日間さらすと、7~9月までに採集した個体はすべて死亡するが、10月以降は徐々に生存率が高まり、12月の採集個体はほぼすべて生存する(図1)。また、-5℃に5日間さらすと、採集時期に関係なくすべて死亡する(図1)。乾土状態の水田で越冬する幼貝だけでなく、水路等の水中で越冬する幼貝も同様に耐寒性が高まる(データ略)。
  • 0℃における生存日数は冬期の貝が夏期の貝に比べ著しく長い(図2)。生存率のプロビット(Y)と生存期間(X)との間の回帰式から求めた半数致死日数は冬期の個体(幼貝)が11.9日であるのに対し、夏期の個体は1.3日である。
  • 耐寒性が高まるための条件のひとつは、非湛水条件である。夏期に水田から採集した幼貝を25℃、湛水(水中)条件で1ヶ月飼 育しても耐寒性は高まらないが、水中から取り出し、25℃、湿潤条件(相対湿度100%)および乾燥条件(同70%)で1ヶ月保存すると、耐寒性は高まる (図3)。
  • 低温順化は耐寒性向上に大きく貢献する。夏期に水田から採集した幼貝を湿潤条件下で低温順化処理(25℃5日間→20℃5日間→15℃5日間→10℃4週間)すると、25℃で保存した場合よりも耐寒性が高まる(図4)。また、湛水条件下でも低温順化処理をすれば耐寒性は高まる(データ略)。
  • 耐寒性向上に対する日長の影響はない(データ略)。

成果の活用面・留意点

  • 本種の分布拡大の制限要因は冬期の低温であり、本成果は本種の本邦での分布拡大予測に利用できる。
  • 冬期のスクミリンゴガイ防除は翌年の被害抑制のために重要であり、その技術開発のための基礎的知見となる。

具体的データ

図1.水田に生息する幼貝を様々な低温条件にさらしたときの生存率の季節変化 図2.冬期および夏期に水田から採集した幼貝の0℃における生存日数

図3.異なる水条件下で管理した幼貝の0℃5日間処理での生存率 図4.異なる温度条件下で管理した幼貝の0℃5日間処理での生存率

 

その他

  • 研究課題名:
  •   地域条件を活かした高生産性水田・畑輪作のキーテクノロジーの開発と現地実証に基づく輪作体系の確立

  • 課題ID:211-k
  • 予算区分:交付金、基盤
  • 研究期間:2005~2007年度
  • 研究担当者:松倉啓一郎、和田 節
  • 発表論文等:
    Wada and Matsukura (2007) Malacologia 49: 383-392
    Matsukura and Wada (2007) Appl. Entomol. Zool. 42: 533-539