九州北部の水稲大麦二毛作飼料生産での土壌窒素供給を踏まえた窒素施肥法

※アーカイブの成果情報は、発表されてから年数が経っており、情報が古くなっております。
同一分野の研究については、なるべく新しい情報を検索ください。

要約

九州北部の水稲大麦二毛作で飼料生産する場合、水稲「タチアオバ」で2.0t/10a、大麦「ニシノチカラ」で1.4t/10aの乾物収量を目標にし、対応する吸収窒素量をいずれも15kgN/10aとする。窒素施肥量は土壌からの窒素供給を考慮して設定できる。

  • キーワード:二毛作水田、飼料、イネ、オオムギ、窒素肥沃度、窒素施肥、吸収窒素量
  • 担当:九州研・九州水田輪作研究チーム(兼:イネ発酵TMR研究チーム)
  • 代表連絡先:電話0942-52-0681
  • 区分:九州沖縄農業・水田作、九州沖縄農業・畜産・草地、九州沖縄農業・生産環境(土壌肥料)、共通基盤・総合研究(飼料イネ)
  • 分類:技術・参考

背景・ねらい

近年、水田の活用が奨励され、九州では温暖な気候を活かして水田における水稲と大麦の二毛作栽培で得られる地上部全てを粗飼料として利用する期待が高まっている。その場合、畜産との連携が容易であるため水田に畜糞堆肥が多量施用されやすいので、食用水稲作よりも土壌の窒素肥沃度が多様となり、土壌からの窒素供給を踏まえて窒素施肥する必要がある。そこで、九州北部における飼料用水稲品種「タチアオバ」と現時点で飼料用適性に優れる食糧用大麦品種「ニシノチカラ」の栽培において目標とすべき収量水準を明らかとし、その水準を達成する土壌からの窒素供給を踏まえた窒素施肥法を検討する。

成果の内容・特徴

  • 水稲の乾物収量は吸収窒素量と関係(r=0.92**)があり、収量増加が鈍くなる2.0t/10aに対応する吸収窒素量は15kgN/10aである(図1)。大麦でも同様の関係(r=0.87**)があり、収量増加が鈍くなる1.4t/10aに対応する吸収窒素量も15kgN/10aである(図1)。
  • 水稲の吸収窒素量は作土の窒素含量と相関(r=0.75**)があり、作土の窒素含量から窒素施肥無しでの吸収窒素量を大まかに推定できる(図2)。大麦の吸収窒素量は作土の窒素含量と相関が小さく、窒素施肥無しでは4kgN/10a程度である(図2)。
  • 茎葉を含む全地上部を収穫する飼料生産において、茎葉を繁茂させる基肥は乾物収量への寄与が高いので、追肥をせずに全て基肥として窒素を施肥しても乾物収量はほとんど減少しない(図3)。
  • 安価な窒素肥料である硫安によって基肥施用したときの窒素利用率(=吸収窒素増加量/基肥窒素量)は、水稲で50%程度、大麦で85%程度である(図4)。
  • 以上から、水稲で2.0t/10a、大麦で1.4t/10aの乾物収量を想定し、いずれにおいても対応する吸収窒素量15kgN/10aを目標に、水稲では土壌の窒素含量から推定した土壌由来の吸収窒素量寄与分、また大麦では4kgN/10aを減じ、残りの窒素分について作物毎の基肥窒素利用率で除した窒素量を硫安で基肥として施用するとよい。

成果の活用面・留意点

  • 福岡県筑後市の二毛作水田で、牛糞堆肥施用量が多様な条件において、飼料用水稲「タチアオバ」(5月下旬移植~10月中旬収穫)と食糧用大麦「ニシノチカラ」(11月中旬播種~4月下旬収穫)を栽培し、黄熟期に地上部全てを収穫した結果である。肥料や堆肥の施用条件は、水稲と大麦のTDN含量に大きな影響を与えなかった。
  • 試験水田の作土は灰色低地土、作土深は約18cm、CECは約20me/100g乾土であった。これよりも保肥力が小さい水田では基肥の一部を追肥とする検討が必要である。

具体的データ

図1 水稲と大麦における吸収窒素量と乾物収量の関係

図2 作土の窒素含量と作物による吸収窒素量

図3 水稲と大麦における追肥の有無が乾物収量に及ぼす影響

図4 水稲と大麦における基肥窒素量と吸収窒素増加量の関係

その他

  • 研究課題名:地域条件を活かした飼料用稲低コスト生産技術及び乳牛・肉用牛への給与技術の確立
  • 中課題整理番号:212b.5
  • 予算区分:基盤、委託プロ(えさプロ)
  • 研究期間:2006~2009年度
  • 研究担当者:原嘉隆、土屋一成、増田欣也、中野恵子
  • 発表論文等:原ら(2009) 土肥誌80:241-249