地下水、暖房機排熱を有効活用したイチゴクラウン温度制御技術

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要約

本システムでは、地下水を主な熱源とし、不足分を温風暖房機の排熱回収器とヒートポンプで補い、イチゴのクラウン部を15~23°Cで制御する。本技術により連続出蕾性が向上し、冬季の草勢維持が可能となり、循環水密閉型より低コストで運用できる。

  • キーワード:イチゴ、クラウン部温度、ヒートポンプ、省エネルギー、草勢維持
  • 担当:九州沖縄農研・イチゴ周年生産研究チーム
  • 代表連絡先:電話0942-43-8362
  • 区分:九州沖縄農業・野菜・花き、野菜茶業・野菜栽培生理
  • 分類:技術・参考

背景・ねらい

イチゴクラウン温度制御技術は、イチゴの花芽分化や休眠など、生産上重要な生理現象の場となるクラウン部を花芽の分化から発達に最適な温度に制御する技術で、花芽分化の安定制御、草勢維持等に効果があり、エネルギー効率が高い生育制御技術として有効な手段となりつつある。 汎用型のクラウン温度制御システムは、温調用の温度保持性が優れる軟質塩ビ製2連チューブと冷温水が供給できる循環水密閉型の高出力の冷温水供給装置および循環用ポンプからなるが、導入費用および運転経費の低減が課題となっている。 そこで、主たる冷温水供給源として地下水、暖房機からの排熱等を有効利用し、不足分をヒートポンプにて補う低コスト型のクラウン温度制御技術を開発する。

成果の内容・特徴

  • 本システムは循環水密閉型の冷温水供給装置の代わりに、水温の季節変動が小さい地下水とその貯水槽の水を主たる熱源として利用し、不足分を冷却・加温が可能なヒートポンプと温風暖房機の排熱を利用した排熱回収器(実用新案登録第3117519号(温室施設装置))により補う。さらに、2連チューブに設置したサーモスタットによって、15°C~23°Cでゾーン制御を行い、運転経費を低減できる(図1図2)。
  • 本システムにより、汎用型システムと同等の生育制御が可能で、果実の肥大促進、冬季の草勢維持に効果が認められ、展葉速度が速まり、連続出蕾性が向上する(表1図3)。
  • 本システムのヒートポンプチラーは、冷却時で平均10kWh/h(秋春季)、加温時では平均8kWh/h(冬季)の能力があり、排熱回収器により暖房機から出る排気熱のうち約40%が回収され、ハウス内加温に使用した燃料消費量を未導入時と比べ約40%削減できる(図1)。さらに、燃料費の削減および電照時間短縮により、運転経費は、温風暖房機単独での暖房を慣行とした場合よりも約30万円/10a削減できる。
  • 本システムは市販の農業資材およびユニットで構成され、取捨選択により多様な生産環境に合わせたシステム構築が可能である。本システムの導入費は約140万円/10a、運転経費は約7万円/10aであり、低コストで運用できる(図1)。

成果の活用面・留意点

  • 本試験データは、本システムを導入した現地実証試験(ビニ~ルハウス11a規模)の結果である。運転経費の試算結果は、野菜茶業研究所温室暖房燃料消費量試算ツール(高市ら(2007)職務育成プログラム(機構-F02))を用い、福岡市におけるハウス温度管理8°Cから4°C(A重油価格65円/L)へ、一般的な電照時間を半減した場合(電力料金17円/kWh)であり、環境条件や温室の仕様、光熱単価などの前提条件により変化する。
  • 従来の汎用型システムの導入費は約250万円/10a、運転経費は約30万円/10aである。

具体的データ

図1 地下水、暖房機排熱等を有効活用したイチゴクラウン温度制御装置の概念図

図2 現地実証圃におけるハウス内気温と処理区間のクラウン部温度の推移

図3 現地実証圃での促成作型における草勢の推移

表1 現地実証圃での処理区間における生育の差異

その他

  • 研究課題名:寒冷・冷涼気候を利用した夏秋どりいちご生産技術と暖地・温暖地のいちご周年生産技術の確立
  • 中課題整理番号:213b.2
  • 予算区分:実用技術、研究強化費
  • 研究期間:2005~2009年度
  • 研究担当者:曽根一純、中原俊二、沖村誠、壇和弘
  • 発表論文等:中原(2005)「温室施設装置」実用新案第3117519号