水稲の少量継続追肥では高温・寡照年でも収量や玄米品質が安定化する

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要約

水稲の出穂前17日頃から出穂後10日頃の10~15回の窒素分施により、同量を穂肥1、2に分けて与える場合より1籾当たりの穂揃期の茎内非構造性炭水化物含量が増える。このため高温・寡照条件での登熟が高まり、収量や玄米品質が安定化する。

  • キーワード:イネ、寡照、玄米品質、高温、収量、少量継続追肥、食味、施肥、非構造性炭水化物、登熟
  • 担当:九州沖縄農研・暖地温暖化研究チーム
  • 代表連絡先:電話0942-52-3101
  • 区分:九州沖縄農業・水田作、作物
  • 分類:技術・参考

背景・ねらい

近年の暖地における一等米比率や作柄低迷の要因の一つに登熟期の高温・寡照条件が指摘されている。このため、高温・寡照条件でも登熟が良好な品種および栽培法の開発が喫緊の課題となっている。品種については高温寡照条件でも「ヒノヒカリ」より登熟が良好となる「にこまる」が育成され(九州沖縄農研2005年)、そのメカニズムの一つに穂揃期の茎内非構造性炭水化物(NSC)が多いことが挙げられている。穂揃期の茎内NSCは従来から不良環境条件での収量安定化に貢献すること、穂肥の多数回にわたる分施(以下、少量継続追肥)によりこのNSCが増加することが知られているため、本研究では、この施肥法が高温・寡照条件における収量・外観品質・食味に及ぼす影響を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 出穂前17日頃から約1ヶ月の少量継続追肥(10~15回の分施、合計4gN/㎡(2005年は6gN/㎡)を行うと、同量を出穂前17日頃と出穂前7日頃の2回に分けて与える慣行2回穂肥に比べて、穂揃期の茎内NSC濃度(データ略)と1籾当たりの茎内NSC含量(図1)が有意に高くなる。出穂前17日頃に2gN/㎡(2005年は1.5gN/㎡)を1回だけ与える慣行1回穂肥に比べても1籾当たりの茎内NSC含量がやや多い傾向にあるが、有意差はない。
  • 高温年や寡照年を含む4カ年の整粒歩合の平均値は少量継続追肥で慣行2回穂肥より明らかに高く、慣行1回穂肥と同程度である(表1)。1籾当たりの茎内NSC含量と未熟粒歩合との間には負の相関が認められる(図2)ことから、少量継続追肥で玄米品質が良好となる要因の一つに、茎内NSC含量が高いことが挙げられる。
  • 表1に示すように、登熟度と収量は少量継続追肥で慣行1回穂肥より明らかに高く、慣行2回穂肥とは有意差がない。また、少量継続追肥では収量と登熟度の年次間の変動係数が小さく、登熟不良年においても安定的に登熟が良好となり、検討した3施肥法の中では収量が高位安定化する。
  • 玄米タンパク含有率は少量継続追肥で慣行1回穂肥より高いものの慣行2回穂肥と同程度であり、食味官能値は慣行1回穂肥と有意差が認められない(表1)。

成果の活用面・留意点

  • 気象変動下における暖地水稲の収量・品質を高位安定化する栽培法の開発に活用する。具体的には、出穂前後の気象条件に応じた窒素施肥量を少量継続追肥の時期ごとに変えて与えることにより籾数や稲体窒素量を適切に制御し、収量・品質・食味の安定性をさらに高める栽培法の開発を目指す。
  • 灰色低地土に普通期栽培(6/19~21移植)した「ヒノヒカリ」の結果である。

具体的データ

図1 穂揃期の1籾当たり茎内 NSC 含量の施肥法による違い

図2 穂揃期の茎内 NSC と未熟粒歩合の関係

表1 ヒノヒカリにおける少量継続追肥と慣行穂肥の収量、収量構成要素、玄米品質、玄米タンパク含有率および食味官能値

その他

  • 研究課題名:気候温暖化等環境変動に対応した農業生産管理技術の開発
  • 中課題整理番号:215a.3
  • 予算区分:基盤・「温暖化適応」
  • 研究期間:2005~2008年度
  • 研究担当者:森田敏、中野洋、和田博史、高橋幹
  • 発表論文等:森田敏(2009)九州沖縄農研報告、52:1-78