暖地向きで良質な紫黒もちの水稲新品種候補系統「さよむらさき」

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要約

水稲「さよむらさき」は、暖地に適する中生の紫黒もち系統である。耐倒伏性に優れ、玄米外観品質は「朝紫」より黒色の発色が良くやや優れる。玄米にアントシアニンを含むほか、一般のもち米より食物繊維、タンニン等を多く含む。

  • キーワード:イネ、紫黒米、もち、アントシアニン
  • 担当:九州沖縄農研・低コスト稲育種研究九州サブチーム
  • 代表連絡先:電話0942-52-0647
  • 区分:九州沖縄農業・水田作、作物
  • 分類:技術・参考

背景・ねらい

紫黒米や赤米は、雑穀米飯の素材や菓子、日本酒等の加工品の着色素材として活用されており、近年の健康志向に応える食材開発や農村の地域振興の目的で普及が拡大している。九州においては、赤米では「ベニロマン」や「紅染めもち」等の改良された暖地向き品種が栽培されているが、紫黒米では、東北地域向けの「朝紫」等が利用されている。しかし、「朝紫」は、九州では極早生の熟期であり、スズメの食害を受ける等の問題があるため、暖地に適する熟期の紫黒米品種が望まれていた。そこで、暖地での栽培に適した中生で、玄米品質が良い紫黒もち品種を育成する。

成果の内容・特徴

  • 「さよむらさき」は、紫黒もち系統「東北糯149号」と暖地向きで多収のもち品種「ハクトモチ」を1990年に交配した後代より選抜、育成された紫黒もち系統である。
  • 出穂期は、育成地では「朝紫」より13日遅い“中生の中”に属する。葉身・葉鞘の一部と芒およびふ先色は紫色を呈し、一般品種との識別は容易である。脱粒性は“やや難”で、倒伏は「ハクトモチ」より少ない。いもち病真性抵抗性遺伝子型は“Pik ”と推定され、葉いもち圃場抵抗性は“強”である。白葉枯病抵抗性は“中”で、縞葉枯病には罹病性である。
  • 精玄米重は、標肥では「ハクトモチ」より35%、「朝紫」より5%低く、紫黒もちとしてやや低収である。多肥では「朝紫」より6%多収である(表1)。
  • 粒形はやや長粒で、玄米千粒重は「朝紫」より0.9g重い。玄米色は「朝紫」と同様に黒みを帯びた暗紫色を呈する。色調を表すL*値(大きい方が明るい)とa*値(大きい方が赤みが強い)、b*値(小さい方が青みが強い)はともに「朝紫」よりやや小さく、紫黒もちとしての品質は「朝紫」より色が濃く(黒に近く)やや優れる(表1写真)。
  • 玄米を「ヒノヒカリ」の白米に10%混合して炊飯した着色米飯の食味は、「朝紫」と同等である(表1)。
  • 玄米成分は、「ハクトモチ」と比較して、食物繊維、カルシウム、リボフラビン(ビタミンB2)の含量が多い。また、「ハクトモチ」には含まれないシアニジン-3-グルコシド(アントシアニン)を含有するほか、タンニンの含量も多く、活性酸素吸収能力は「ハクトモチ」の約5倍である(表2)。

成果の活用面・留意点

  • 栽培適地は暖地の平坦部および中山間部である。九州の福岡県、熊本県の有色米生産組織が特産品の開発を計画している。作付け見込み面積は当面10haである。
  • 玄米の粒厚がやや薄いため、品質に影響を及ぼさない範囲で適宜ふるい目を調節する。
  • 一般品種への混入を防ぐため、栽培および収穫物調製は、作業機を別にする等区分して行う。また、他品種との自然交雑を避けるため採種圃周辺での栽培は避ける。

具体的データ

表1 特性一覧

表2 玄米成分含量成分

写真1 籾および玄米

その他

  • 研究課題名:直播適性に優れた高生産性飼料用・低コスト業務用水稲品種の育成
  • 中課題整理番号:311a
  • 予算区分:委託プロ(加工プロ4系)
  • 研究期間:1990~2009年度
  • 研究担当者:片岡知守、坂井真、岡本正弘、西村実、八木忠之、田村克徳、田村泰章、梶亮太、溝淵律子、平林秀介、山下浩、深浦壯一