低平地重粘土地帯の野菜栽培において水環境に配慮した施肥を行うための窒素流出予測モデル

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要約

裏作大麦圃場のデータに基づき開発された既存の窒素流出モデルは、数点の改良によって、低平地重粘土地帯での野菜栽培における窒素流出に対しても高い再現性を有する。この改良型モデルを用いた多様な施肥条件における窒素流出量の予測計算により、水質保全効果の算定・比較が可能である。

  • キーワード: クリーク地帯、野菜、施肥、窒素循環モデル、水質保全
  • 担当:九沖農研・土壌環境指標研究チーム
  • 代表連絡先:電話096-242-1150
  • 区分:九州沖縄農業・生産環境(土壌肥料)
  • 分類: 研究・参考

背景・ねらい

九州北部では農地の利用率が高く、一年を通じて野菜栽培が盛んである。野菜栽培は施肥量が多く、水質環境に配慮した施肥設計が望まれる。シミュレーションモデルを活用して、異なる施肥条件下での窒素流出量を比較することは、合理的な施肥設計に有効である。水田裏作での大麦栽培のデータに基づき、白谷ら(1996)により開発された窒素流出モデルは、地表から暗渠までを1つのボックスとし、硝酸性窒素の蓄積量より暗渠排水の窒素濃度を計算するものであり、多様な施肥条件について予測計算が可能である。そこで、低平地重粘土地帯における野菜栽培下での窒素溶脱予測に適合するよう上記モデルを改良し、異なる施肥条件下での窒素流出量の比較を行い、水質保全効果の算定に対してのモデルの有用性を示す。

成果の内容・特徴

  • モデルの概要、およびその基礎式を図1図2に示す。白谷ら(1996)のモデルから野菜の根系と圃場条件を考慮して有効土層厚を15cmに変更した。また、バレイショおよびタマネギ栽培等における調査結果より作物吸収速度(PN,PH)を新たに算出し、再現性の向上を図る。各反応式の各項の反応速度は図2下段のように示され、αとθを文献値や最適化アルゴリズム(GA)を用いて最適化する。
  • 2006年春バレイショ作(降雨量約750mm)に対してパラメータを最適化した結果、実測値を精度良く再現したため、同一のパラメータを用いて、2008年の春バレイショ作(降雨量約450mm)を計算したところ、十分な再現性を確認できる(図3)。なお、バレイショだけでなく、タマネギ作に対しても同様な再現性が得られる(図略)。
  • モデルは、硫安、緩効性肥料、成分調整成型堆肥など窒素溶出パターンの異なる施肥条件を数値化して外部入力することにより、窒素流出量を予測計算することができる。図4は、2006年春バレイショ作において図に示す3種類の施肥条件下で流出負荷量を予測計算した例であり、相互の結果から水質保全効果の算定・比較が可能である。

成果の活用面・留意点

  • モデルによる水質保全効果の算定は、特定の気象・作物生育条件下でなされるものであり、現実の水質保全効果は降雨条件等によって変動する。
  • 本モデルを他地区に適用する場合は、適切な有効土層厚への変更、ある作付け条件下での窒素流出量の測定を行い,それをもとに一度パラメータのフィッティングを行い、流出モデルを活用することが望ましい。

具体的データ

図1 窒素流出モデルの概要図

図2 窒素流出モデルに関する基礎式と 各反応速度式(基礎式の各項)

図3 春バレイショ作(2008年)における暗渠

図4 3種類の施肥条件における硝酸窒素流出

 

参考文献:白谷ら.麦作圃場における窒素流出のモデル化.農土論集181, 97-105 (1996)

その他

  • 研究課題名:有機性資源の農地還元促進と窒素溶脱低減を中心にした農業生産活動規範の推進のための土壌管理技術の開発
  • 中課題整理番号:214q.2
  • 予算区分:基盤、高度化事業、実用技術
  • 研究期間:2005~2009年度
  • 研究担当者:島武男、山田寧直(長崎県農林技術開発センター)、吉永育生、原口暢朗、塩野隆弘