マルチプレックスPCR法によるムギ類赤かび病菌の毒素産生型と菌種の同時判定

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要約

トリコテセン生合成関連遺伝子内に設計した4組のプライマーセットを用いたマルチプレックスPCRを行うことで、国内に分布するムギ類赤かび病菌の毒素産生型と菌種を同時に判定できる。

  • キーワード:ムギ類赤かび病菌、トリコテセン系毒素、種複合体、マルチプレックスPCR
  • 担当:九州研・赤かび病研究チーム
  • 代表連絡先:電話096-242-7729
  • 区分:九州沖縄農業・病害虫
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

麦類赤かび病の主原因はFusarium graminearum 種複合体であり、国内にはFusarium asiaticum (FA)と狭義のF. graminearum s.str.(FG)の2種が分布している。本菌が産生するトリコテセン系毒素の産生型には、3種類(3ADON、15ADON、NIV)が存在し、菌種と毒素産生型の組み合わせとして、国内では5タイプ(FA-3ADON、FA-15ADON、FA-NIV、FG-3ADON、FG-15ADON)が確認されている。従来法では、菌種の判定にはPCR-RFLP法を、毒素産生型の判定にはマルチプレックスPCR法をそれぞれ別途に行う必要があるため、これらのタイプをより簡易に判定できる手法の開発が求められている。

成果の内容・特徴

  • 世界各地から分離された赤かび病菌(F. graminearum 種複合体)19菌株の塩基配列情報に基づき、トリコテセン生合成遺伝子クラスター内のtri6 周辺領域に3組のプライマーとtri3 のコード領域内に1組のプライマーを設計する(図1表1)。
  • 設計した4組のプライマーと市販のMultiplex PCR Kit(タカラバイオ製)を使用し、図2の反応液組成と反応条件でPCRを行う。
  • PCR産物を電気泳動すると、バンドパターンから国内に分布する5タイプを明確に区別できる(図3)。すなわち、FA-3ADONでは約1100bpのバンド、FA-15ADONでは約420bpと1100bpのバンド、FA-NIVでは約660bpのバンド、 FG-3ADONでは約330bpのバンド、FG-15ADONでは約330bpと420bpのバンドがそれぞれ検出される。
  • 国内各地(13道府県)から分離された赤かび病菌26菌株について本法で解析した結果、判定は従来法と完全に一致する。また、近縁のFusarium 属菌7種とMicrodochium nivale については増幅産物は検出されないことから、本法の特異性が確認できる。
  • 本法では菌種と毒素産生型が1回のマルチプレックス PCRで判定できるため、従来法に比べて大幅な省力化を実現できる。

成果の活用面・留意点

  • 本法の妥当性は複数の研究機関により確認済みであり、マーカー菌の一次スクリーニングや集団解析等のツールとして生態研究分野で利用されている。
  • FG-NIVは国内未報告であり、本法では対象としていない。国内発生時には、プライマーの追加や改良により対応は可能である。
  • Multiplex PCR Kitの使用を推奨する。その他の製品を使用する場合は、各自で反応条件を至適化する必要がある。

具体的データ

図1 トリコテセン生合成遺伝子とプライマー設計位置

図2 マルチプレックス PCRの反応液組成と反応条件

図3 マルチプレックスPCR法による菌種および毒素産生型の検出パターン

表1 プライマー配列

その他

  • 研究課題名:かび毒汚染低減のための麦類赤かび病防除技術及び高度抵抗性系統の開発
  • 中課題整理番号:323a
  • 予算区分:基盤、委託プロ(生産工程)
  • 研究期間:2008~2009年
  • 研究担当者: 鈴木文彦、中島隆
  • 発表論文等:Suzuki F. et al. (2010) J.Gen. Plant Pathol. 76: 31-36.