閉花性で赤かび病抵抗性に優れる「小麦中間母本農9号」

要約

  • 「小麦中間母本農9号(赤かび系3号)」は閉花性で、赤かび病に対する初期感染抵抗性に優れる。また、遺伝子座(Fhb1)が抵抗性型で進展抵抗性に優れ、かび毒蓄積性も低い。両抵抗性を併せ持つ初の系統として、赤かび病抵抗性の交配母本に活用できる。
  • キーワード:コムギ、赤かび病、閉花性、感染抵抗性、進展抵抗性
  • 担当:九州沖縄農研・赤かび病研究チーム、特命チーム員(大麦・はだか麦研究チーム、めん用小麦研究チーム、パン用小麦研究チーム)
  • 代表連絡先:0942-52-3101
  • 区分:九州沖縄農業・水田作、作物
  • 分類:研究・普及

背景・ねらい

小麦の赤かび病は穂に感染し、子実収量・品質の低下やかび毒の蓄積を招くため、重要な病害である。「U24」は閉花性で初期感染に対する抵抗性(感染抵抗性)に優れるが、晩生のため交配親として活用しにくく、進展抵抗性が極弱であるため、雑種後代での進展抵抗性の向上は望めない。そこで、感染抵抗性に加えて感染後の赤かび病菌の進展に対する抵抗性(進展抵抗性)を併せ持つ、交配に利用しやすい系統を開発する。

成果の内容・特徴

  • 「小麦中間母本農9号」は2002年春に閉花性の「U24」と赤かび病抵抗性に優れる「西海165号」を交配し、一穂一粒(SSD)法および系統育種法で固定を図ってきた系統である。
  • 「小麦中間母本農9号」の総合的な赤かび病抵抗性は「強」と判定され(表1)、本系統の赤かび病抵抗性には感染抵抗性と進展抵抗性が関わっている。
  • 「小麦中間母本農9号」を含む、「U24」と「西海165号」の交配から由来した組換自殖系統群では、「U24」由来の閉花性は感染抵抗性を向上させる(表2)。また、「西海165号」由来の3BS染色体上の量的形質遺伝子座(QTL, Fhb1, 近傍のマイクロサテライトマーカーXgwm533およびXgwm493で判定できる)は進展抵抗性を向上させる。「小麦中間母本農9号」は閉花性で、Fhb1の遺伝子型が「西海165号」型である。
  • 「小麦中間母本農9号」は感染強度が強い環境下においてかび毒濃度が「西海165号」と同様に低い(表3)。
  • 「小麦中間母本農9号」は「農林61号」と比べて、出穂期と成熟期は2日程度遅い(表4)。稈長と穂長は長い。穂数は同程度、耐倒伏性はやや劣る。うどんこ病抵抗性および赤さび病抵抗性は優れる。収量と千粒重は低く、容積重と外観品質は同程度である。

成果の活用面・留意点

  • 「小麦中間母本農9号」は出穂・成熟期等の実用形質が「U24」より改善されているのに加え、感染抵抗性(閉花性)と進展抵抗性(Fhb1)を併せ持っているため、交配により機作の異なる赤かび病抵抗性の有用な遺伝因子を効率的に導入可能である。交配後代では高度な赤かび病抵抗性を有する系統の出現が期待できる。
  • 交配後代の選抜過程では、閉花性であっても葯殻の一部が抽出する系統が分離する。このような系統は感染抵抗性が劣る可能性があるため、閉花性の選抜では開花期以後入念に観察する必要がある。
  • 進展抵抗性の選抜はFhb1の遺伝子型と圃場・室内検定での罹病程度の評価により可能である。
  • 「小麦中間母本農9号」はやや長稈で倒伏しやすいため、後代の選抜の際留意する。
  • 閉花性は劣性3遺伝子による遺伝と推定されている(Fujita et al. 2005)。

具体的データ

表1 「小麦中間母本農9号」の赤かび病抵抗性

表2 「U24」と「西海165 号」の交配より由来した組換自殖系統群(「小麦中間母本農9号」を含む)の 赤かび病感染抵抗性および進展抵抗性

表3 「小麦中間母本農9号」のかび毒蓄積性

表4 生育および収量調査成績(条播多肥栽培,2009 年度)

(久保堅司)

その他

  • 研究課題名:かび毒汚染低減のための麦類赤かび病防除技術及び高度抵抗性系統の開発
  • 中課題整理番号:323a
  • 予算区分:基盤、実用技術
  • 研究期間:2002~2010 年度
  • 研究担当者:久保堅司、河田尚之、藤田雅也、八田浩一、松中仁、小田俊介、波多野哲也、関昌子、吉岡藤治、乙部千雅子、中島隆
  • 発表論文等:1)Kubo et al. (2010) Breeding Science 60(4):405-411
                      2)久保ら「小麦中間母本農9号」品種登録出願 2011 年1 月21 日(第25565 号)