赤かび病菌に感染した小麦では、開花20日後以降の登熟後半に穀粒中のかび毒蓄積量が大幅に増加する。また、開花20日後の感染で、穂の外観発病が判然としなくても穀粒中にかび毒が蓄積する。
従来より小麦では、開花期頃が赤かび病に最も感受性の高い時期であることが知られ、開花期の感染抑制を主体とした赤かび病防除技術が構築されてきたが、近年は食品の安全性を確保するために、発病を抑制する効果に加え、かび毒(デオキシニバレノール(DON)・ニバレノール(NIV))の低減効果を重視した赤かび病防除技術の高度化が求められている。そのための基礎知見として、小麦における登熟期間中の赤かび病かび毒蓄積様式を明らかにする。
1. ポット栽培した小麦の開花期および開花10日後・20日後の穂にそれぞれ赤かび病菌を感染させると、いずれの時期の感染でも、穀粒中のかび毒蓄積量は開花20日後以降に大幅に増加する(図1)。また、開花20日後の感染では、穂の外観発病は判然としないが、成熟期の穀粒中にはかび毒が蓄積する(図2)。
2. 関東以西で栽培される7品種を含む延べ16品種・系統を3年次にわたり圃場に栽植し、常時赤かび病菌が感染できる条件下で登熟させたところ、いずれの品種・系統においても、開花20日後以降に穀粒中のかび毒蓄積量の顕著な増加が認められる(図3)。
3. 以上より、赤かび病菌に感染した小麦では、開花20日後以降の登熟後半に穀粒中のかび毒蓄積量が大幅に増加する。
1. 小麦においては、開花期頃の感染を防ぐことに加え、登熟後半におけるかび毒蓄積の制御が最終産物のかび毒汚染低減に重要であることが示され、本知見は、赤かび病かび毒低減技術開発に活用できる。
2. 登熟期間中は穀粒の重量が大きく増加することを考慮し、かび毒蓄積量の変動解析は、重量ベース(μg/g (ppm))でなく粒数ベースの蓄積量(μg/100粒)にもとづいて行っており、このことにより、登熟後半に大幅なかび毒蓄積が起こることが初めて明らかとなっている。
3. 北海道および東北の小麦品種については検討していない。
(吉田めぐみ、中島隆)