葉枯病の不稔粒が少ない中生多収性のはとむぎ新品種候補「九州3号」

要約

はとむぎ「九州3号」は熟期が中生で関東以南の栽培地域に適する。耐倒伏性が強く、着粒数が多くて多収である。葉枯病には強く、葉枯病に起因する不稔粒の発生が少ない。製茶加工適性はよい。

  • キーワード:ハトムギ、中生、葉枯病、製茶
  • 担当:九州沖縄農研・バイオマス・資源作物開発チーム
  • 代表連絡先:電話096-242-1150
  • 区分:九州沖縄農業・畑作
  • 分類:技術・参考

背景・ねらい

  国内産はとむぎはペットボトル茶や雑穀米の原材料として利用されていて、はとむぎの作付けが増加している。「あきしずく」は関東から九州までの広い地域で作付けられている。しかし、暖地の中山間地や用水の確保しにくい地域では葉枯病の発生が多く、「あきしずく」より強い葉枯病抵抗性品種が求められている。葉枯病は葉を枯らすだけでなく、不稔粒を発生して暖地での大きな減収要因になっている。
  そこで、関東以南の栽培地域に適する中生の葉枯病抵抗性安定多収品種を育成する。

成果の内容・特徴

  • 「九州3号」は中生、短稈、多収を目標に、1996年九州農業試験場資源作物研究室(熊本県合志市)において、韓国からの導入品種「光州(JP83421)」 を母本、 岡山在来の短稈突然変異系統を父本にして交配し、系統育種法で選抜、固定を図ってきた。
  • 出穂期は「あきしずく」より1~2日遅く、成熟期は「あきしずく」より1~2日遅く、鳥取県では「あきしずく」より3~4日遅い中生の熟期である(表1)。
  • 草丈は「あきしずく」よりやや長いが(表1、図1)、耐倒伏性は「あきしずく」と同じで強い。茎数は「あきしずく」よりやや少ないが、鳥取県では「あきしずく」と同じかやや多い。幼苗時の葉鞘色は赤紫である。開花期の柱頭色は濃赤紫である。
  • 百粒重は「あきしずく」と同じであり、小粒である。着粒層は「あきしずく」よりやや長い。子実歩合は「あきしずく」より高い。
  • 葉枯病抵抗性は、「はとむすめ」、「はとひかり」、「はとゆたか」より明らかに強く、葉枯病による葉枯程度は「あきしずく」と同じで発生が少なく、葉枯病による不稔粒は「あきしずく」より少ない(表1)。鳥取県では葉枯程度と不稔粒の発生程度が「あきしずく」より有意(それぞれ1%、10%)に少ない(表2)。
  • 製茶品質は「はとひかり」と同じであり、良質である。(表3)。

成果の活用面・留意点

  • 関東以南の栽培地域に適する。鳥取県では「あきしずく」の産地化が進められているが、葉枯病発生が懸念される山間地域の一部に普及予定である。
  • 比較的脱粒しにくいが、脱粒するので刈り取り適期(機械収穫では全粒の7割が着色時)に収穫する。
  • 慣行の種子消毒や生育期の薬剤防除(ロブラール水和剤)は必ず実施する。
  • 九州3号」の幼苗期は葉身および葉鞘が赤紫色であり、「あきしずく」と同じなので、混種に注意する。

具体的データ

表1 はとむぎ[九州3号」の特性概要

表2 「九州3号」と育成品種の葉枯病発生程度

表3 「九州3号」の製茶品質

図1 九州3号の草姿 左:九州3号 右:あきしずく

(手塚隆久)

その他

  • 研究課題名:暖地・南西諸島の農業を支えるさとうきび等資源作物の低コスト安定生産技術の開発
  • 中課題整理番号:211g
  • 予算区分:基盤
  • 研究期間:1996 ~ 2010 年度
  • 研究担当者:手塚隆久、松井勝弘、原貴洋、森下敏和