醸造原料用カンショ「タマアカネ」の直播栽培技術

要約

萌芽性の劣る「タマアカネ」の直播栽培では、種いもの萌芽処理で初期生育を促進できる。また、挿苗栽培より劣る上いも率および上いも1個重の確保には疎植が有効であり、収量向上にはマルチ栽培が有利である。

  • キーワード:サツマイモ、直播栽培、萌芽処理、マルチ、裁植密度
  • 担当:九州沖縄農研・サツマイモ育種研究チーム
  • 代表連絡先:電話0986-24-4274
  • 区分:九州沖縄農業・畑作
  • 分類:技術・参考

背景・ねらい

醸造原料用品種「タマアカネ」は、省力化・植付け作業時期分散など、生産規模拡大の点で有利な直播適性を備えるが、現地で直播栽培法を普及するには早期に栽培技術の確立を図る必要がある。「タマアカネ」は萌芽性がやや劣り、直播栽培で上いも率と上いも1個重の低下、ならびに屑いもの増加など商品化率の低下が認められる。そこで、種いもの萌芽処理、マルチ被覆の有無、マルチ資材および栽植密度が萌芽・収量特性等に及ぼす影響を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 萌芽処理は安価な資材で行うことができ、マルチの種類にかかわらず栽培初期の出芽率向上に有効である(図1)。
  • 裁植密度およびマルチの有無は出芽率に大きく影響せず、出芽までの所要日数の短縮には透明マルチが有効であり、無マルチ栽培では初期生育が劣る(表1)。
  • 子いも収量に対する裁植密度の影響は認められないが、マルチ栽培で増収し、屑いも重が減少する(表1)。
  • 上いも率はマルチ栽培で高めることができる(表1)。上いも1個重は裁植密度が低下するに従い200g以上の比率が増加するが(図2)、無マルチ栽培では裁植密度にかかわらず100g以下の比率が高い(表1、図2)。
  • 切干歩合に対する裁植密度やマルチの影響は認められないが、無マルチ栽培でβ-カロテン含量は増加する(表1)。
  • 挿苗栽培と比較し、直播栽培では子いもの縦横比の低下、すなわち形状が細くなる傾向を示す(表2)。

成果の活用面・留意点

  • 生産農家による「タマアカネ」の直播栽培時に活用し、本品種を用いた直播栽培法の普及を促進する。
  • 萌芽処理の際、晴天時にはシート内部が40°Cを超えることがあるため、シートの開閉にて温度調整を行い、萌芽率低下の原因となる種いもの過乾燥に注意する。
  • 抑草効果は黒マルチが最も高く、無マルチでは中耕培土、透明マルチでは株元の手取り除草を複数回行う必要がある。
  • 直播栽培は挿苗栽培より在圃期間が長いため、まれにいもの腐敗がみられる。その際は速やかに除去し、他の収穫物との接触を避ける。

 具体的データ

図1 萌芽処理の概要(A)と萌芽処理が出芽率の推移に及ぼす影響(B)(2009 年)

表1 直播栽培した「タマアカネ」の地下部特性等に及ぼす裁植密度とマルチ被覆 の影響(2009 年)

図2 栽培条件が子いも1個重の分布に及ぼす影響

表2 直播あるいは挿苗栽培における地下部 特性の比較(2010 年)

(境哲文)

その他

  • 研究課題名:良食味で加工適性に優れた甘しょ品種の育成と新たな有用特性を持つ甘しょ育種素材・系統の開発
  • 中課題整理番号:311e
  • 予算区分:基盤
  • 研究期間:2009~2010 年度
  • 研究担当者:境哲文、片山健二、甲斐由美、吉永優