「きたほなみ」から高製粉性を導入した暖地向け小麦系統の開発

要約

 「きたほなみ」と「チクゴイズミ」の交配後代から製粉性で選抜した小麦系統は、軟質で「きたほなみ」並に製粉歩留が高く、アラビノキシラン含量は「きたほなみ」と同様に低く、暖地においても飛躍的に製粉性を改良した小麦系統が開発できる。

  • キーワード:コムギ、きたほなみ、製粉性、アラビノキシラン
  • 担当:九州沖縄農研・特命チーム員(めん用小麦研究チーム)
  • 代表連絡先:電話0942-52-3101
  • 区分:九州沖縄農業・水田作、作物
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

北海道では、軟質で極めて製粉性に優れ、灰分が低く粉色もよい国産小麦品種として初めて輸入銘柄に匹敵する品質をもつ「きたほなみ」が育成され、普及がはじまっている。暖地においては、未だ輸入銘柄に匹敵する品質の小麦はなく、「きたほなみ」を遺伝資源として、小型テストミルを用いて中期世代から選抜を行い、飛躍的に製粉性を改良した小麦系統の早期開発を目指す。

成果の内容・特徴

  • 2003年度に九州沖縄農業研究センターにおいて、「北見81号(きたほなみ)」/「チクゴイズミ」の交配を行い、2006年度にF3集団から早生短稈の219個体を穂選抜した。 2007年度(F4)に穂別系統として栽培し、晩生長稈の系統を除いた172系統を収穫してブラベンダー小型テストミルを用いて製粉し、高製粉性系統を選抜した。2008年度  (F5)に系統栽培した収穫物で高製粉性を確認し、そのうち「羽系W1318」「羽系W1320」の2系統は、比較的早生で栽培性が優れている。
  • 両系統のブラベンダー小型テストミルによる製粉歩留は「きたほなみ」並に高く、ふるい抜けの指標となるA粉割合も高い(表1)。
  • 両系統のSKCS硬度は「きたほなみ」並で、軟質系統である(表1)。
  • 製粉歩留と関係が深いとされている細胞壁成分のアラビノキシラン含量(加藤ら2002)は、両系統とも「きたほなみ」と同様に低い(表1)。
  • 出穂期等の栽培特性は、暖地向き品種の「農林61号」並に改良されている(表2)。
  • また、選抜途中のF4系統の製粉歩留は、両親の間に多くの系統がおさまる単頂型の頻度分布を示す(図1)。

成果の活用面・留意点

  • 暖地・温暖地向け小麦品種の製粉性改良のための交配母本として利用できる。
  • 原粒灰分は、北見農試産の「きたほなみ」並より高い(表1)。

具体的データ

表1 選抜系統の製粉特性(2008年度系統栽培)

表2 選抜系統の栽培特性(2009年度生産力検定予備試験)

図1 F4系統におけるブラベンダー小型テストミルによる製粉歩留の頻度分布

(藤田雅也)

その他

  • 研究課題名:めん用小麦品種の育成と品質安定化技術の開発
  • 中課題整理番号:311b
  • 予算区分:基盤、機構重点、委託プロ(水田底力1系)
  • 研究期間:2003~2010年度
  • 研究担当者:藤田雅也、八田浩一、一ノ瀬靖則、小田俊介、久保堅
  • 司、松中仁、河田尚之、波多野哲也、関昌子
  • 発表論文等:藤田ら(2010) 育種学研究12(4):140-143