牛肉の硬さは結合組織構造に影響される

要約

高脂肪含量の牛肉に比べ、低脂肪含量の牛肉では筋内膜の束同士が筋周膜で密接に結合される。従って、コラーゲン線維構造が強固であり、コラーゲン含量が多いため硬い。

  • キーワード:牛肉、結合組織、コラーゲン、筋周膜、筋内膜
  • 担当:九州沖縄農研・周年放牧研究チーム
  • 代表連絡先:電話096-242-7757
  • 区分:九州沖縄農業・畜産・草地(大家畜)
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

牛肉の硬さは食味や嗜好性に影響し、一般的に我が国の消費者には軟らかい肉が好まれる。筋肉は筋組織、結合組織と脂肪組織に大別され、一般的に結合組織の間に脂肪組織が入り込むと筋肉の硬さが低下すると考えられている。結合組織は筋線維を一本ずつ包む筋内膜と多数の筋線維を束ねる筋周膜よりなり、コラーゲン線維を主体として構成され、加齢(Nishimura et al.et al.,2009)や筋線維型(Nakamura et al.,2003)などにより構造的にも影響を受ける。そこで、食肉の硬さの面から牛肉の肉質評価法を確立するために、牛肉の組織・形態学的観察により脂肪含量の高い牛肉と低い牛肉間でコラーゲン線維の構造を比較し、食肉の硬さとの関係について検討する。

成果の内容・特徴

  • 黒毛和種および褐毛和種去勢牛 計15頭(体重688±9kg)を用いて、胸最長筋(リブロース部分)から凍結切片を作製し、エオジン染色後に光学顕微鏡で観察すると、高脂肪含量(27.9%)で剪断力価が低い(1.4kg;コラーゲン含量は290mg)牛肉は、低脂肪含量(8.5%)で剪断力価が高い(6.8kg;同508mg)牛肉に比べて、筋組織と筋組織の間に多量の脂肪組織が入り込んでいる(図1のA、B)。
  • 細胞要素を溶解・除去するアルカリ浸軟法により、結合組織のみを残したコラーゲン線維標本を作製し、凍結乾燥後に走査型電子顕微鏡を用いて低倍率で観察すると、高脂肪含量の牛肉は低脂肪含量の牛肉に比べて脂肪組織の跡(点線で囲まれた空洞部分)が多く、筋内膜の束(蜂の巣状の部分)同士が離れている(図1のC)。一方、低脂肪含量の牛肉は筋内膜の束同士が筋周膜(矢印のひも状の部分)で密接に結合されており、結合組織構造が全体として強固である(図1のD)。しかし、筋内膜のコラーゲン線維の構造は両者の間で違いは認められない(図1のC、Dの拡大図)。

成果の活用面・留意点

  • 調理科学分野において、牛肉の肉質評価の基礎的資料となる。
  • アルカリ浸軟法は以下の文献による。Ohtani et al.(1988)Collagen fibrillar networks as skeletal frameworks: a demonstration by cell-maceration/scanning electron microscope method. Archives of Histology and Cytology、51: 249-261.

具体的データ

図1.高脂肪(A,C)と低脂肪(B,D)含量の牛肉の組織観察

(中村好德)

その他

  • 研究課題名:地域条件を活かした健全な家畜飼養のための放牧技術の開発
  • 中課題整理番号:212d.4
  • 予算区分:基盤
  • 研究期間:2006~2010 年度
  • 研究担当者:中村好德、常石英作、神谷 充、山田明央
  • 発表論文等:Nakamura et al. (2010) Journal of Food Science、75:E73-E77