イネの水利用を評価するための微気象作物統合モデル

要約

地表面の微気象過程と作物生育過程を統合することで、任意の移植日に対してその後の気温、水蒸気圧、日射量、風速の4要素の推移から、イネの発育と葉面積の増加、並びに日々の水温、蒸散量、蒸発量などを一体的に計算することができる。

  • キーワード:水稲、蒸発散、フェノロジー、水利用効率
  • 担当:九州沖縄農研・暖地温暖化研究チーム
  • 代表連絡先:電話 096-242-7766
  • 区分:九州沖縄農業・生産環境、共通基盤・農業気象
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

地球上の全陸地における水使用量の70%は農業用水であり、日本ではそのうち90%以上を水田用水が占めている。そのため、今後の温暖化に伴う稲の水利用の変化の把握や、水資源をより有効に利用することが求められている。ところが、温暖化やそれに適応するための作期の移動は稲の生物季節にも影響を与えるため、地表面の微気象過程に基づいた物理モデルのみでは、気候変動による稲の水利用の変化を適切に評価することができなかった。そこで、地表面の熱物理的特性と作物生育の関係を定量化することで、任意の気象条件と移植日に対する水利用量の算定を可能にすることをねらいとする。

成果の内容・特徴

  • イネの発育による受光態勢および蒸散特性の変化を定量化することで、地表面の微気象過程と作物生育過程を統合した。統合されたモデルは、気温、水蒸気圧、日射量、風速の4要素の推移から、イネの発育と葉面積の増加、並びに日々の水温、植被温度、蒸散量、蒸発量などを一体的に計算する。統合モデルは、異なる作期の熱収支項(純放射・顕熱・潜熱・地中熱フラックス)と水田水温の季節変化をうまく再現することができ、それぞれを10~20W/m2(潜熱は0.3~0.7mm/dayに相当)と0.8°C程度の誤差で推定することができる。(図1、図2)
  • 統合モデルを用いることで、移植後の葉の繁茂による蒸散量の増加、出穂後の気孔コンダクタンスの低下による蒸散量の減少など、実際の水田における水利用の特徴を再現することができる。宮崎平野を対象に計算した生育期間中の蒸発散量の合計値に占める蒸散量の割合は、3月1日移植から7月1日移植にかけて順に40、50、49、46、37%で(乾物生産量と蒸散量が比例すると仮定すると)、水利用効率は極端な早期移植や晩期移植で低下すると推察される(図3)

成果の活用面・留意点

  • 農耕地における基礎モデルとして、気候変動および作期移動が水田の熱環境や水需要に及ぼす影響の面的評価、あるいは効率的な水利用を可能にする作期の検討に活用できる。
  • モデルの一部の経験的なパラメータはコシヒカリで得られたものである。他品種のパラメータの値を実験的に求めることによって、品種による生育期間中の水要求量の違いや、気候変動に対して予想される熱環境変化の評価に用いることが期待される。

具体的データ

図1.統合モデルにおける計算のフローチャート

図2.各熱収支項の観測値とモデルによる計算値の比較(左:早期、中:普通期、右:晩期)

図3.異なる移植日に対する蒸発散量の季節変化

(丸山篤志)

その他

  • 研究課題名:気候温暖化等環境変動に対応した農業生産管理技術の開発
  • 中課題整理番号:215a.3
  • 予算区分:基盤、交付金プロ(温暖化)
  • 研究期間: 2006~2010年度
  • 研究担当者:丸山篤志、桑形恒男(農環研)
  • 発表論文等:Maruyama and Kuwagata (2010) Agric. Forest Meteorol. 150: 919-930.