沖縄県伊江島のため池群と地下水の水質実態と改善対策

要約

伊江島の栄養塩濃度が高い複数のため池ではMicrocystis等の増殖による水質悪化がみられる。富栄養化ため池の多くは畜産または生活系排水の適正処理により改善が期待できる。また、農業・畜産系窒素発生負荷のうち22%が地下水中に溶脱している。

  • キーワード:ため池、富栄養化、地下水、全有機炭素、硝酸態窒素、非点源汚染
  • 担当:九州沖縄農研・南西諸島農業研究チーム
  • 代表連絡先:電話096-242-1150
  • 区分:九州沖縄農業・畑作、九州沖縄農業・生産環境(土壌肥料)
  • 分類:行政・参考

背景・ねらい

南西諸島の中で、島尻マージが分布する地域では、降雨量の季節的偏在や透水性が高い気象・地質条件のため水資源に乏しく干ばつが生じやすい。そのため、良質な農業用水の確保が重要な課題である。沖縄本島北部の伊江島では、地表流出水を貯えるため池群が農業用水源である。また、今後は建設中の地下ダムにより不足する用水を補う計画である。従って、農業の持続的発展のためには、ため池と地下水の水質保全が喫緊の課題である。そこで、本研究では、このような特徴を持つ伊江島の水資源管理に資するため、ため池・地下水の水質実態を明らかにし、良質な水資源確保への課題を示す。

成果の内容・特徴

  • 島内の主要なため池(表1)においてTOC(全有機炭素)の平均値は3~6mgL-1であるが、最大値が10mgL-1を超えるため池が7ヶ所あり水質悪化が確認された。ため池のTOCの増加は高い栄養塩類濃度と豊富な日射環境、高い気温条件を背景としたMicrocystis等の植物プランクトンの増殖が主因である。
  • ため池の富栄養化の要因は、土壌の透水性が高いことから農地からの負荷流入の寄与は低く、生活排水と畜産排水が主と考えられる。現地踏査に基づくため池毎の水質改善対策を表1に提示する。
  • 建設中の地下ダム集水域内の硝酸性窒素濃度は平均7.8mgL-1で、ため池のT-N濃度と比べると高いが、調査期間内では平均値は低下する傾向である(図1)。
  • 地下ダム集水域のフレーム調査から、集水域内では約400区画で主にサトウキビ、葉たばこ、牧草が栽培され、牛97頭が飼養されている。原単位法で算出した発生窒素負荷量は年間32.7tとなり、一方、地下ダム水質への生活排水の影響はほとんどない。降雨の地下浸透率(40%,農水省地下ダム計画値)を用いて試算すると、発生窒素負荷の地下水への溶脱率は22%である。
  • 地下水硝酸性窒素濃度は環境基準内にありかつ漸減しているが、今後地下ダムの供用等を契機とした多肥の新規作物の導入等に留意する必要がある。

成果の活用面・留意点

  • これらの結果は2007年10月から2010年1月にかけて実施した全22回(原則6週間に1回)の現地観測データに基づく。
  • 本成果は、農業用施設管理にかかる行政施策担当者に有効な情報である。

 具体的データ

表1 ため池の水質環境の特徴と有効な水質改善対策

図1 地下ダム集水域における窒素濃度の推移

(久保田富次郎)

その他

  • 研究課題名:南西諸島における島しょ土壌耕地の適正管理、高度利用を基盤とした園芸・畑作物の安定生産システムの開発
  • 中課題整理番号:214v
  • 予算区分:基盤
  • 研究期間:2008~2010 年度
  • 研究担当者:久保田富次郎、吉永育生
  • 発表論文等:吉永ら(2009)沖縄農業研究、43(1):79-84