コムギの根系形態はカドミウムの吸収量に影響する

要約

子実へのカドミウム (Cd) の蓄積性が低いコムギ2品種は蓄積性が高い2品種と比較して栄養生長期の段階で吸収量が少なく、根から地上部への移行程度も小さい。また、分枝根の発生が少ないほどCdの吸収量が少ない。

  • キーワード:コムギ、カドミウム、根
  • 担当:作物開発・利用・小麦品種開発・利用
  • 代表連絡先:Mail Address Fax:096-242-7769、Tel:096-242-7682
  • 研究所名:九州沖縄農業研究センター・水田作・園芸研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

カドミウム (Cd) は動物に健康被害を及ぼしうる金属元素であることから、食物に含まれるCdは食の安全を確保する上で可能な限り少ないことが望ましい。著者らはこれまでに子実へのCdの蓄積性が特徴的なコムギ品種を明らかにしている。Cdの植物体内への蓄積は、もともと土壌中にあるCdをコムギが根から吸収することに端を発するため、Cdの蓄積性の違いには根系の形態や機能が関与する可能性が考えられる。そこで,Cdの蓄積性と根の形態的特性との関係について根箱を用いた試験で解析する。

成果の内容・特徴

  • アクリル板とゴムチューブで作成した根箱を用いることにより、経時的に根系の発達を観察・評価することができる(図1)。
  • 子実へのCdの蓄積性が低い「きたほなみ」と「ナンブコムギ」は蓄積性が比較的高い「ニシカゼコムギ」や「キタカミコムギ」と比較して栄養生長期(播種後73、97日目)のCdの吸収量が少ない(表1)。
  • 子実低蓄積の2品種は高蓄積の2品種と比較して根から地上部へのCdの移行程度が小さい(表1)。
  • 子実低蓄積の2品種は高蓄積の2品種と比較して根箱の表面積あたりの根数が少ない(図2、表2)。これは主に、分枝根の発生が少ないことに因る。
  • 根箱の表面積あたりの根数は少ないほど、すなわち分枝根の発生が少ないほどコムギ植物体におけるCdの吸収量は少ない(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 根箱は多様な作物の根系観察に活用できる。表面積あたり根数は根箱表面を1cm角の格子に区切り、各格子内の根数を計測することにより算出する。
  • 子実低蓄積品種の中には栄養生長期の段階でCdの吸収量が少ないものもあることから、子実へのCd蓄積の低減を遺伝的な改良により目指す際、交配組み合わせによっては生育早期に評価・選抜を行える可能性がある。
  • 子実へのCdの蓄積には、根からの吸収性や根から地上部への移行性に加えて、地上部での移行性など、異なる機作も関係する可能性がある。

具体的データ

図1 試験で用いた根箱表1 地上部および根のCd含量 (ng)

(久保堅司)

その他

  • 中課題名:気候区分に対応した用途別高品質・安定多収小麦品種の育成
  • 中課題番号:112d0
  • 予算区分:交付金、科研費
  • 研究期間:2007~2009年度
  • 研究担当者:久保堅司、渡邊好昭、松中仁、関昌子、藤田雅也、河田尚之、八田浩一、三池輝幸、中島隆
  • 発表論文等:Kubo et al. (2011) Plant Production Science 14(2):148-155