プロアントシアニジンフリー大麦系統の子実に蓄積されるフラボノイド

要約

プロアントシアニジンフリー遺伝子ant13、ant17、ant22を持つ「ニシノホシ」の準同質遺伝子系統は、その子実に、様々な機能性を有するtricin(トリシン)を高濃度に蓄積する。

  • キーワード:オオムギ、プロアントシアニジンフリー遺伝子、フラボノイド、トリシン
  • 担当:作物開発・利用・大麦品種開発・利用
  • 代表連絡先:Mail Address Fax:096-242-7769、Tel:096-242-7682
  • 研究所名:九州沖縄農業研究センター・水田作園芸研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

大麦子実の種皮には、抗酸化活性をはじめとする様々な機能性を示すことで知られるフラボノイドやプロアントシアニジンが含まれている。プロアントシアニジンフリー遺伝子はフラボノイドの生合成経路を改変し、特にant17およびant22(flavanone 3-hydroxylaseの不活性化に関与)はカテキンおよびプロアントシアニジンを蓄積しないがhomoeriodictyol (3)およびchrysoeriol (7)を蓄積することが明らかにされている。しかし、プロアントシアニジンフリー遺伝子を持つ大麦系統に蓄積されるフラボノイドの探索は十分に行われていない。本研究では、日本の主要品種「ニシノホシ」を遺伝的背景とするプロアントシアニジンフリー遺伝子の準同質遺伝子系統「ニシノホシ(ant13)」、ニシノホシ(ant17)」、「ニシノホシ(ant22)」(ニシノホシ(遺伝子記号)で表記)に蓄積される有用なフラボノイドを明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 「ニシノホシ(ant13)」、「ニシノホシ(ant17)」、「ニシノホシ(ant22)」の子実をメタノールで抽出し、その抽出物を酢酸エチルと水とで溶媒分画し、酢酸エチル画分をC18 HPLC(高速液体クロマトグラフィー)で分離・精製することにより、新規フラバノン(2RS)-dihydrotricin 7-O-b-D-glucopyranoside (1)、既知フラバノン (2RS)-dihydrotricin (2)、(2RS)-homoeriodictyol (3)、既知フラボンchrysoeriol 7-O-[a-L-rhamnopyranosyl-(1→6)-b-D-glucopyranoside] (4)、chrysoeriol 7-O-b-D-glucopyranoside (5)、 tricin (6)、chrysoeriol (7)(図1)を単離できる。
  • 様々な機能性を示すtricin (6)の含有量は、「ニシノホシ(ant13)」、「ニシノホシ(ant17)」、「ニシノホシ(ant22)」では「ニシノホシ」の約2倍で、これらの準同質遺伝子系統を除くと、「ニシノホシ」が最も高く、次いで日本の代表的な品種「あまぎ二条」、北米の代表的な品種「Harrington」の順である(表1)。
  • 「ニシノホシ(ant13)」、「ニシノホシ(ant17)」、「ニシノホシ(ant22)」におけるtricin (6)の蓄積は、eriodictyolからdihydroquercetinを経由しcatechinへ通じる生合成経路をブロックした結果、ニシノホシに備わっていたtricin (6)へ通じる経路に基質が多く流入することにより引き起こされる(図1)。

成果の活用面・留意点

  • プロアントシアニジンフリー遺伝子ant13、ant17、ant22を有する大麦系統およびフラボノイド(1-7)の機能性に関する基礎的な知見として利用できる。
  • tricin (6)には抗癌活性、抗酸化活性、抗ヒスタミン活性、抗ウイルス活性、神経保護作用が報告されており、その生産にこれらの準同質遺伝子系統が利用できる。
  • 他の「ニシノホシ」を遺伝的背景とするプロアントシアニジンフリー遺伝子の準同質遺伝子系統「ニシノホシ(ant18)」、「ニシノホシ(ant19)」「ニシノホシ(ant25)」、「ニシノホシ(ant26)」、「ニシノホシ(ant27)」、「ニシノホシ(ant28)」、「ニシノホシ(ant29)」は、その子実におけるフラボノイドの含有量が「ニシノホシ」と差がない。

具体的データ

図1 大麦由来のフラボノイド(1-7)の構造およびその推定される生合成経路
表1 異なる大麦品種・系統の子実におけるフラボノイド(1-7)の含有量

(中野 洋)

その他

研究課題名:需要拡大に向けた用途別高品質・安定多収大麦品種の育成
中課題番号:112e0
予算区分:交付金
研究期間:2008~2011年度
研究担当者:中野洋、河田尚之、吉田充、小野裕嗣、岩浦里愛、塔野岡卓司
発表論文等:Nakano et al. 2011. J. Agric. Food Chem. 59:9581-9587.