サツマイモネコブセンチュウの増殖を抑制するエンバク極早生系統「A19」
要約
エンバク「A19」は、夏播き栽培でサツマイモネコブセンチュウの増殖を抑制する作用を持ち、九州地域では9月下旬に播種しても年内に出穂する多収系統である。
- キーワード:エンバク、夏播き栽培、サツマイモネコブセンチュウ、飼料作物育種
- 担当:自給飼料生産・利用 ・飼料作物品種開発、気候変動対応・暖地病害虫管理
- 代表連絡先:
Fax:096-242-7769、Tel:096-242-7682
- 研究所名:九州沖縄農業研究センター・畜産草地研究領域、生産環境研究領域
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
エンバクの夏播き用極早生品種として20品種程度が流通しているが、近年、その一つである「たちいぶき」がサツマイモネコブセンチュウの増殖を抑制する作用を持つことが明らかにされている。「たちいぶき」は、九州地域で9月上旬から9月下旬の播種でその効果を活用でき、線虫対策と自給飼料生産に同時に対応できる飼料作物品種であることから、新たな耕畜連携の有効な技術の一つとして考えられる。
しかしながら、「たちいぶき」は9月下旬の播種では年内に出穂に至らず、低収になることが示されており、その点を改良する必要がある。そこで、九州地域で9月下旬の播種でも年内に出穂し、サツマイモネコブセンチュウの増殖を抑制するエンバク品種を育成する。
成果の内容・特徴
- 「A19」は、サツマイモネコブセンチュウの増殖を抑制する「たちいぶき」を母とし、夏播き栽培で多収である「スーパーハヤテ隼」を父として交配した組合せから、九州沖縄農業研究センターと雪印種苗株式会社の共同研究により育成した品種である。
- 出穂まで日数は、平均で、9月前半播きでは「たちいぶき」より18日、「スーパーハヤテ隼」より6日早い。9月後半播きでは「たちいぶき」より29日、「スーパーハヤテ隼」より9日早く、既存品種中で出穂が最も早いグループの「九州15号」と同程度である(表1、写真)。
- 乾物収量は、9月前半播種では「たちいぶき」比96%であるが、9月後半播種では「たちいぶき」比110%の多収で、「九州15号」と同程度である(表1)。
- 倒伏程度は低く、耐倒伏性は「たちいぶき」、「九州15号」よりやや優れ、「スーパーハヤテ隼」より優れる(表1)。
- 葉枯病および冠さび病の罹病程度は既存品種と同程度である(表1)。
- 粗蛋白質含有率と推定TDN含量は、「たちいぶき」および「スーパーハヤテ隼」より低いが、「九州15号」より高い(表1)。
- 「たちいぶき」と同程度にサツマイモネコブセンチュウの増殖を抑制する(表2、3)。
成果の活用面・留意点
- 暖地を中心に、サツマイモネコブセンチュウ対策と飼料生産の兼用品種としての利用が見込まれ、既存の極早生品種を夏播き栽培で利用できる地域では本系統も利用可能である。
- 既存の夏播き用品種の中では、各地域における播種適期の後半での播種に適する。サツマイモネコブセンチュウ対策での利用では、九州地域では9月中に播種する。
具体的データ




(桂真昭)
その他
- 中課題名:水田・飼料畑・草地の高度利用を促進する飼料作物品種の育成
- 中課題番号:120b0
- 予算区分:交付金
- 研究期間:2005~2011年度
- 研究担当者:桂真昭、立石靖、我有満、山下浩、高井智之、岩堀英晶、上杉謙太、松岡秀道、後藤和美、上床修弘、波多野哲也、近藤聡(雪印種苗)、立花正(雪印種苗)、橋爪健(雪印種苗)、佐野善一(雪印種苗)、小槙陽介(雪印種苗)、小山内光輔(雪印種苗)