歴史的水利システムである通潤用水を事例とした水管理技術の再評価

要約

歴史的水利施設である通潤用水では、支線水路の受益面積に応じて通水断面が規定されており過剰配水が防止できる。また、上井手と下井手の上下二段に配置されている幹線水路を通じて用水が反復利用されている。これらの水管理に対する工夫は、現代の技術にも適用できる。

  • キーワード:水管理、水利システム、歴史的水利施設、公平性、反復利用
  • 担当:総合的土壌管理・暖地畑土壌管理
  • 代表連絡先:Mail Address Fax:096-242-7769、Tel:096-242-7682
  • 研究所名:九州沖縄農業研究センター・生産環境研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

農業土木技術は、計画-設計-施工-管理を一つのサイクルとした技術体系である。この中で、現在、設計、施工の技術レベルが他の技術レベルと比較して顕著に高く、管理技術のさらなる向上により土木技術全体が高まる。日頃から水利システムを使用している者(管理者)が、日常に起こる問題点を踏まえ、より使いやすいように作ってきた(設計、施工)歴史的水利システムには、管理技術に現在より力点をおいた「使うための工夫」が数多く施されていることが推察される。そこで、歴史的水利システムの事例として熊本県通潤用水の水管理に関する調査を行った。通潤用水は水源を持たない白糸台地に農業用水を送水するため1854年に建設された水利システムである。受益面積100haに対して、用水量が約0.2t/sと潤沢でないため、合理的な水利用が必要となっている。本研究では通潤用水を対象に、水管理の工夫を整理し再評価することで、管理技術の向上のための基礎的資料とすることを目的とする。

成果の内容・特徴

  • 現在、直接分水工による支線水路への過剰取水が水管理の問題となっている地区も散見される。しかし、通潤用水では、計画用水以上の流量を分水できないように幹線水路と支線水路の接点である分水口には、通水断面を規定するための「分水箱」と呼ばれる木管が設置されていた。分水箱の断面積は、分水口から各支線水路に分水される受益面積に応じて決められており(表1)、必要な流量(100haあたり約0.15t/s)だけ分水されるため過剰分水は防止できる。
  • 下井手は通潤橋直下の五老カ滝川に取水口を持っているものの、取水口からの用水量だけでは下井手の受益水田面積に対して十分な用水を確保できない。その解決策として、上段に配置された上井手から支線水路、水田を経由した排水を下井手で受けて反復利用することが可能となっており、不足分の用水を補うことできる(図2)。
  • 上井手と下井手の流量観測結果を図3に示す(調査地点は図1参照)。st1、st2が上井手の調査地点で、st3~st7が下井手の調査地点である。上井手では途中区間で分水されるため、下流側のst2の調査地点では流量が減少している。しかし、下井手では支線水路が下井手と連結しているため用水が補給され、下流側のst5、st6の調査地点でむしろ流量が増加している。反復利用により用水が有効に活用されていることが分かる。

成果の活用面・留意点

歴史的水利システムである通潤用水では、限られた用水を水利システム内に公平に配水する、水利システム内の反復利用等により有効に水を利用する といった水管理の基本に忠実に作られている。これらの基本思想、それに基づく工夫を再評価することは、設計、施工に偏重しがちな現代技術において、管理技術の重要性を再考する契機となる。

具体的データ

図1 通潤用水の概要図表1 支線水路の受益面積と分水量
図2 上井手と下井手の反復利用の形態図3 上井手と下井手の各地点の流量

(島武男、久保田富次郎)

その他

  • 中課題名:暖地畑における下層土までの肥沃評価と水・有機性資源活用による土壌管理技術の開発
  • 中課題番号:151a3
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2010~2011年度
  • 研究担当者:島武男、久保田富次郎
  • 発表論文等:島ら(2011)農業農村工学会誌、79(9):11-15