高温環境下の乳牛は分娩後に体内の酸化ストレスが増大する
要約
暑熱下に分娩した乳牛は、血中のアスコルビン酸が減少し、チオバルビツール酸反応物(TBARS)が増加して体内の酸化ストレスが亢進している。分娩直後のTBARS濃度と肝機能の指標となる血中アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ活性には正の相関がある。
- キーワード:乳牛、酸化ストレス、分娩、高温環境
- 担当:気候変動対応・畜産温暖化適応
- 代表連絡先:
Fax:096-242-7769、Tel:096-242-7682
- 研究所名:九州沖縄農業研究センター・畜産草地研究領域
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
環境温度の上昇による家畜の生産性低下を抑制するためには、高温環境に対する家畜の生理反応を詳細に解析する必要がある。特に分娩時には、分娩および泌乳開始にともなうストレスが二重に加わり、高温環境に対する感受性が増大すると考えられているが酸化ストレスを含む代謝変動の詳細については不明な点が多い。そこで、代謝負荷が大きくなる分娩時について、温暖化適応対策の一助となるよう、体内の酸化ストレスの変動および血中の酵素活性の変化について調べる。
成果の内容・特徴
- 環境の平均気温が26度、平均湿度が77%以上では、分娩前の乳牛の直腸温度が39°C以上に上昇し、分娩後にはさらに直腸温度が上昇する(表1)。
- 分娩前後において血中のγ-グルタミルトランスペプチダーゼ(γ-GTP)活性に顕著な変化は見られないが、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)活性は、分娩後に顕著に増加する(表1)。
- 血中の抗酸化成分であるアスコルビン酸濃度は、分娩後に顕著な一過性の低下を示し、酸化生成物であるチオバルビツール酸反応物(TBARS)の濃度は持続的な増加を示す(表2)。
- 分娩直後の血中TBARS濃度は、肝機能障害の指標となる血中のAST活性と有意な正の相関関係にある(表3)。
成果の活用面・留意点
- 夏季分娩牛の生理、代謝変動に関する基礎的知見として活用できる。
- 夏季高温期の分娩牛において酸化ストレス低減対策強化などの飼養管理技術の改善に活用できる。
具体的データ



(田中正仁)
その他
- 中課題名:畜産由来の温室効果ガス制御技術の高度化と家畜生産の温暖化適応技術の開発
- 中課題番号:210c0
- 予算区分:交付金、委託プロ(農業適応)
- 研究期間:2010~2011年度
- 研究担当者:田中正仁、神谷裕子、鈴木知之、野中最子
- 発表論文等:Tanaka et al. (2011) Animal Science Journal, 82:320-324.