国頭マージにおける家畜ふん堆肥のソバに対する肥料効果
要約
国頭マージにおけるソバ栽培において、家畜ふん堆肥施用により土壌の可給態リン酸濃度が高まり、ソバ茎葉のリン酸濃度が高まる。堆肥からの全リン酸投入量と子実収量との間には相関が認められる。
- キーワード:国頭マージ、酸性土壌、ソバ、家畜ふん堆肥、リン酸
- 担当:バイオマス利用・地域バイオマス利用
- 代表連絡先: Fax:096-242-7769、Tel:096-242-7682
- 研究所名:九州沖縄農業研究センター・生産環境研究領域
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
南西諸島には有機質に乏しく生産性の低い土壌が広く分布しており、畜産由来バイオマスを資材として活用した土壌理化学性の改善が求められている。新規作物のソバは、パインアップル、サトウキビ等との輪作体系の確立が有望視されており、強酸性土壌の国頭マージにおいては、家畜ふん堆肥施用によりソバの生育が顕著に改善して、既存産地に匹敵する水準の子実収量を得られることが報告されている(2009年度研究成果情報)。そこで、バイオマス利活用技術を確立するために、家畜ふん堆肥施用が土壌の理化学性、ソバ作物体中養分濃度に及ぼす影響について検討する。
成果の内容・特徴
- 土壌のpHが4.2、トルオーグリン酸が56mg kg-1のパインアップル栽培圃場において、表1の家畜ふん堆肥Bと苦土石灰の施用試験を行ったところ、家畜ふん堆肥施用によりソバの子実収量は増加するが、苦土石灰の施用による効果は認められないことから、子実収量の改善には土壌pHの上昇、交換酸度y1の低下等の土壌酸性の緩和は寄与せず、家畜ふん堆肥の施用により上昇する土壌の交換性カリウムあるいは可給態リン酸、または両方が寄与すると推察される(表2)。
- 表1の堆肥の施用により茎葉のリン酸濃度は上昇し、子実収量との間に有意な正の相関が認められることから、堆肥からのリン酸の供給がソバの生育改善に寄与していたと推察される(図1)。
- 表1の堆肥の全リン酸含量と施用量から計算した堆肥からの全リン酸投入量と子実収量との関係はミッチャーリッヒ式で近似でき、堆肥からのリン酸投入量が36g m-2以上では収量増加は頭打ちとなる(図2)。しかし、堆肥無施用で化成肥料を標準量施用した場合の子実収量は96g m-2、標準の2倍量施用した場合の収量は104g m-2と、化成肥料のみの場合は施用の効果は低い。
成果の活用面・留意点
- この成果は、ソバ品種「常陸秋そば」(表2)、「さちいずみ」(図1、図2)の3月播種、5月収穫に適用できる。
- 堆肥投入後の土壌pHの上昇は4.2から4.6と、パインアップルの土壌診断基準案の4.5-5.5内におさまるため、ソバ栽培後にパインアップル等好酸性作物の栽培が可能である。
- 堆肥の種類により全リン酸含量が異なるため投入量を考慮する。
- 家畜ふん堆肥の施用効果の持続性については今後検討する必要がある。
具体的データ
(高嶺(山口)典子、荒川祐介)
その他
- 中課題名:地域資源を活用したバイオマス循環利用システムの開発
- 中課題番号:220e0
- 予算区分:交付金
- 研究期間:2008~2011年度
- 研究担当者:高嶺(山口)典子、荒川祐介、原貴洋、住秀和(大宜味村役場)、照屋寛由(沖縄農研)、生駒泰基
- 発表論文等:荒川ら(2011)土肥誌、82(5):381-388