周年放牧肥育後の褐毛和種去勢雄牛では内臓廃棄個体の発生率は極めて低い

要約

周年放牧肥育後の褐毛和種去勢雄牛は代謝疾患を発症しにくく、内臓廃棄個体の発生率が0%と慣行肥育(畜舎で牛を飼養し配合飼料を多給する肉用牛生産方法)される褐毛和種去勢雄牛および黒毛和種去勢雄牛の発生率(41%および47%)と比べて極めて低い。

  • キーワード:褐毛和種、周年放牧肥育、肉用牛、内臓廃棄率
  • 担当:自給飼料生産・利用・周年放牧
  • 代表連絡先:q_info@ml.affrc.go.jp、Fax:096-242-7769、Tel:096-242-7682
  • 研究所名:九州沖縄農業研究センター・畜産草地研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

肉用牛生産の生産物として、牛肉の他に肝臓や腸などの畜産副生物がある。通常、これらの畜産副生物は屠畜後の獣医師の判断により、疾病などが確認されると部分廃棄や全部廃棄などの処置が取られる場合がある。日高ら(1997)によると北海道(十勝)のホルスタイン種去勢雄牛(16,226頭)を調査した結果、何らかの疾病を有し、内臓を部分廃棄される牛は57%であり、その中でも肝臓疾患牛は32%であった。また、内臓廃棄の端緒となる第一胃不全角化症の発症は、粗飼料割合の増加により抑制できると考えられている(北海道酪農畜産協会 2006)。従って、温暖な西南暖地で可能な周年放牧肥育は、放牧による運動や粗飼料摂取割合の増加などにより、内臓廃棄の発生率の低減が期待できる。 本研究ではこれまでに明らかにされていない周年放牧肥育牛の内臓廃棄の発生率(特に代謝疾患に起因するもの)について調査し、慣行肥育牛と比べることにより放牧飼養による牛体への効果を検討する。

成果の内容・特徴

  • 2006年から2009年に出生した褐毛和種去勢雄牛13頭を用いて、肥育素牛から暖地型牧草(バヒアグラスなど)と寒地型牧草(イタリアンライグラス)を組み合わせた周年(昼夜)放牧に、トウモロコシサイレージなどの国産飼料を組み合わせて飼養(周年放牧肥育;図1)し、約24ヵ月齢で出荷後の内臓(心臓、肝臓、胃、小腸、大腸など)廃棄の発生率は0%である(図2)。
  • 周年放牧肥育牛の血液性状(総蛋白質、尿素窒素、グルコース、乳酸脱水素酵素、中性脂肪、総コレステロール、遊離脂肪酸ならびに各種ミネラル濃度)を調べたところ、季節による推移はあるものの、正常値範囲内(小野ら1998)の変動であり、健康状態に異常は見られない(表1)。
  • 慣行肥育された褐毛和種去勢雄牛124頭の内臓廃棄の発生率は41%であり、一方、黒毛和種去勢雄牛368頭では47%であることからも、周年放牧肥育牛の内臓廃棄の発生率は極めて低いと考えられる。また、慣行肥育牛の内臓廃棄は特に肝臓で最も高く(褐毛和種:43%、黒毛和種:47%)、慣行肥育における生産体系の主な特徴である舎飼による運動不足と穀物飼料の多給(粗飼料の不足)との関連が推察される(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 周年放牧肥育に取り組む生産者への参考資料となる。

具体的データ

 図1~3,表1

その他

  • 中課題名:暖地における周年放牧を活用した高付加価値牛肉生産・評価技術の開発
  • 中課題番号:120d3
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2011~2012年度
  • 研究担当者:中村好德、金子 真、林 義朗、山田明央
  • 発表論文等:
    中村ら(2012)日本暖地畜産学会報、55:181-194.
    中村ら(2013)日本暖地畜産学会報、印刷中