麦類における出穂後尿素葉面散布は赤かび病の発病とかび毒蓄積に影響しない

要約

蛋白質含有率向上を目的とした出穂後の硬質小麦および二条大麦への尿素の葉面散布は、赤かび病の発病とかび毒蓄積に影響しない。また、尿素を赤かび病防除薬剤と混合散布しても、薬剤の効果は低下しない。

  • キーワード:赤かび病、かび毒、尿素、実肥、デオキシニバレノール、ニバレノール
  • 担当:食品安全信頼・かび毒リスク低減
  • 代表連絡先:電話 q_info@ml.affrc.go.jp、Fax:096-242-7769、Tel:096-242-7682
  • 研究所名:九州沖縄農業研究センター・生産環境研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

硬質小麦等の麦類の生産においては、蛋白質含有率を高めるために出穂後の追肥(実肥)が必要となる場合がある。尿素の葉面散布は、赤かび病防除薬剤との混合施用による作業の省力化も可能であり、有用な実肥施用法と考えられるが、窒素施用により赤かび病への感受性が増してかび毒(デオキシニバレノール(DON)・ニバレノール(NIV))の汚染リスクが高まることが懸念されており、このことが本施用法の普及を妨げる一因となっている。これまでに、硬質小麦における硫安の土壌表面散布による実肥施用は赤かび病およびかび毒蓄積に影響しないことが明らかになっているが(2006年度研究成果情報)、窒素形態が異なる場合や、大麦における実肥の影響については不明である。そこで、硬質小麦および二条大麦における尿素葉面散布が赤かび病の発病とかび毒蓄積に及ぼす影響について、薬剤と混合施用した場合も併せ明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 硬質小麦において、開花期およびその10日後の尿素2%液葉面散布(1回あたり窒素1.38 kg/10a相当)は収穫物の蛋白質含有率を高めるが、赤かび病の発病およびかび毒の蓄積には差を生じない(表1、表3)。
  • 二条大麦において、穂揃い期およびその10日後の葯殻抽出期の尿素2%液葉面散布(1回あたり窒素1.38 kg/10a相当)は収穫物の蛋白質含有率を高めるが、赤かび病の発病およびかび毒の蓄積には差を生じない(表2、表3)。
  • 硬質小麦、二条大麦のいずれにおいても、赤かび病防除薬剤(チオファネートメチル水和剤)の効果は尿素との混合散布により低下しない(表1、表2、表3)。
  • 以上のことから、硬質小麦および二条大麦において、蛋白質含有率を高めるための出穂後の尿素の葉面散布および赤かび病防除薬剤との混合散布は赤かび病の発病とかび毒蓄積に影響しない。

成果の活用面・留意点

  • 硬質小麦および二条大麦において、蛋白質含有率向上を目的とした出穂後の尿素葉面散布を赤かび病によるかび毒汚染リスク増大の懸念から控える必要はない。
  • 6%以上の尿素液葉面散布では、葉焼けや芒焼けが生じることが知られている(2005年度研究成果情報)。
  • 本成果はかび毒を低減するための農業生産工程管理(GAP)に活用できる。

具体的データ

表1~3

その他

  • 中課題名:かび毒産生病害からの食品安全性確保技術の開発
  • 中課題番号:180a0
  • 予算区分:委託プロ(生産工程)、交付金
  • 研究期間:2008~2011年度
  • 研究担当者:吉田めぐみ、中島 隆、宮坂 篤、鈴木文彦、平八重一之
  • 発表論文等:中島ら(2012)九病虫研会報、58:7-13