九州地域における春まきソバ「春のいぶき」の栽培ガイドライン
要約
春まきソバ「春のいぶき」の出芽および開花までの日数は気温が高いと短くなり、開花からは30日程度で種子黒化率は8割になる。窒素は0.6kg/aを基準とする。収量を重視すると種子黒化率8割が収穫適期になるが、麺色を重視する場合はそれより早くする。
- キーワード:そば、春まき栽培、春のいぶき、播種期、施肥量
- 担当:ブランド農産物開発・資源作物品種開発・利用
- 代表連絡先:q_info@ml.affrc.go.jp、Fax:096-242-7769、Tel:096-242-7682
- 研究所名:九州沖縄農業研究センター・作物開発・利用研究領域
- 分類:普及成果情報
背景・ねらい
そばは夏季に需要が増大するが、夏季に食するそばは前年秋の収穫種子を加工している。夏季の需要期にとれたてのそばが供給できるようになれば、消費者は盛夏にそばを賞味できるようになる。ソバ品種「春のいぶき」を用いた春まき栽培は、九州の温暖な気候を活用して、3月下旬から4月上旬に播種して、6月上中旬に収穫するものである。栽培時期が晩霜後から梅雨前期までと限られるため、適期播種、適期収穫が重要となる。春まき栽培の安定生産をはかるため、「春のいぶき」の栽培ガイドラインを構築する。
成果の内容・特徴
- 播種期は各地の晩霜以降に出芽するよう設定する。出芽日数は気温の影響を受け、低温では出芽まで7~10日要する(図1)。20度以上では播種後4日で出芽する。
- 播種晩限は4月20日であり、これ以降は開花はするが成熟が不揃いとなる。
- 播種量は、出芽率が低いので秋まきよりも多めの0.6~0.9kg/aを播く。
- 出芽揃から開花期(全個体の40~50%が開花を始めた日)までの日数は気温に影響され(図2)、開花までの予想日数は、(開花まで日数)=-0.816×(出芽揃いから開花期までの期間平均気温)+39.218で算出できる(r=-0.90**)。
- 開花期から30日程度で種子黒化率が7~8割に至る(図3)。丸抜き(殻を除去した種子)の粒色は黒化始め以降退色するので、収穫時期は、収量を重視すると種子黒化率が8割になる開花30日後であるが、麺の緑色を重視する場合は黒化率8割より早く収穫する。
- 種子の黒化率が9割を超えると脱粒しやすい。さらに、降雨で穂発芽が発生するため、品質が低下する。
- 春まき栽培の窒素吸収量は植物体全体で0.8~1.0kg/a、種子は0.53~0.66kg/aであるので、窒素量は種子となる0.6kg/aを基準とする(表1)。リン酸および加里は窒素と同じように重要であるので、窒素と同量以上施用する。野菜跡では、残効を考慮して施肥量を決める。
- 本成果をとりまとめた「ソバ春まき栽培マニュアル」(冊子)を作成し、配布している。
普及のための参考情報
- 普及対象:ソバ生産者
- 普及予定地域:九州地域(平坦部)、普及目標は500ha
- ソバは湿害にきわめて弱いため、水はけの悪い圃場は使用しない。湿害を回避するため、額縁排水溝の設置、サブソイラー施工により排水性を改善する。
具体的データ
その他
- 中課題名:高付加価値を有する資源作物品種の育成と新規作物の評価・活用
- 中課題番号:320d0
- 予算区分:交付金、実用技術、農食事業
- 研究期間:2011~2013年度
- 研究担当者:手塚隆久、土屋史紀、原貴洋
- 発表論文等:
1)手塚(2013)「盛夏に新蕎麦が賞味できるソバ春まき栽培」日本作物学会第236回講演会市民公開シンポジウム要旨
2)九州研(2014)「ソバ春まき栽培マニュアル」
3)手塚ら(2014)「ソバ春まき栽培における発育ステージに及ぼす気温の影響」日本作物学会紀事 83:314-315.