穂発芽に強く製粉性が優れる長崎ちゃんぽん用硬質小麦新品種「長崎W2号」
要約
長崎県と共同育成した硬質小麦新品種「長崎W2号」は、「ミナミノカオリ」と比較して、穂発芽耐性に優れ、短強稈で倒伏に強く、やや多収である。また、製粉性に優れ、長崎ちゃんぽん麺に適する。
- キーワード:コムギ、穂発芽耐性、製粉性、ちゃんぽん用
- 担当:作物開発・利用・小麦品種開発・利用
- 代表連絡先:q_info@ml.affrc.go.jp、Fax:096-242-7769、Tel:096-242-7682
- 研究所名:九州沖縄農業研究センター・水田作園芸研究領域
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
「長崎ちゃんぽん」は長崎県の有名な特産品であるが、ちゃんぽん麺の原料のほとんどを外国産小麦に頼っているのが現状である。現在、長崎県で生産されている小麦の多くは菓子用であり、ちゃんぽん麺には適さない。そこで、県特産品のブランドイメージを高め、地場食品産業の発展に寄与するとともに、水田営農の基幹作物である小麦の生産振興を図るため、ちゃんぽん麺用としての適性が優れる硬質小麦品種を育成する。
成果の内容・特徴
「長崎W2号」は、2002年4月に九州沖縄農業研究センターにおいて、当初はパン用・早生化を育種目標として、「西海185号」を母とし、「北見春61号」/「西海186号」(後の「ミナミノカオリ」)のF1を父として人工交配を行い、派生系統育種法により選抜固定を図ってきたものである。
2007年度に長崎県に系統を移管し、長崎県と九州沖縄農業研究センターの共同研究により育成した品種であり、2012年度の世代はF9である。
本品種は硬質小麦品種「ミナミノカオリ」と比較して次のような特性を有する。
- 出穂期は2日遅く、成熟期は同程度である。稈長は短く、穂長は長く、穂数はやや少ない。耐倒伏性は優れる(表1)。
- 千粒重、容積重は同程度で、収量性はやや優れる。検査等級は優れる(表1)。
- 播性は‘IV’の秋播性で、コムギ縞萎縮病ウイルスI型系統と赤かび病には‘やや弱’で同程度である。穂発芽性は‘やや難’で優れる(表2)。
- 原粒のタンパク質含有率はやや低く、灰分含量はやや低い(表3)。
- 製粉歩留、ミリングスコアともに高く、製粉性は優れる(表3)。
- 遺伝子型分析の結果、やや低アミロースタイプであり、高分子量グルテンサブユニット5+10を持つ(データ略)。
- ちゃんぽん麺の外観(肌あれ)は優れるが、色の評価は年次により異なる。なめらかさ、食味はやや優れ、総合的に優れる(表4)。
成果の活用面・留意点
- 2013年に長崎県の奨励品種に採用され、普及予定地域は長崎県内の平坦地である。2015年度には普及面積25haを見込んでいる。
- 「長崎W2号」はコムギ縞萎縮病に抵抗性ではないので、汚染圃場での作付けは避ける。また、赤かび病には強くないので、適期防除を行う。
- パン・中華麺用小麦のランク区分タンパク基準値11.5%以上を確保するため、穂揃期追肥を実施する。
具体的データ
その他
- 中課題名:気候区分に対応した用途別高品質・安定多収小麦品種の育成
- 中課題整理番号:112d0
- 予算区分:交付金
- 研究期間:2001~2012年度
- 研究担当者:藤田雅也、土谷大輔(長崎県農林技術開発センター)、河田尚之、八田浩一、久保堅司、松中仁、小田俊介、波多野哲也、関昌子、田谷省三、平将人
- 発表論文等:品種登録出願公表 第28052号(平成25年7月5日)