高温乾燥風による水稲の乳白粒発生機構

要約

登熟中期の高温乾燥風によって発生する乳白粒の白濁部は、水ストレス下の胚乳細胞で起きる浸透調節により、玄米成長が維持されるものの澱粉集積が一時的に阻害されることで形成される。

  • キーワード:イネ、フェーン、水ストレス、浸透調節、乳白粒、白未熟粒
  • 担当:地球温暖化に対応した農業技術の開発・水稲高温障害対策
  • 代表連絡先:q_info@ml.affrc.go.jp、Fax:096-242-7769、Tel:096-242-7682
  • 研究所名:九州沖縄農業研究センター・水田作・園芸研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

白未熟粒の一つである乳白粒は登熟期の低日照、極端な高温、高温乾燥風などの不良環境条件が起因して発生する。2007年には南九州の早期「コシヒカリ」は登熟初期からの低日照と台風の襲来時に発生した比較的長期の高温乾燥風(フェーン)の影響により、乳白粒発生率が45%に達する記録的な品質低下被害に見舞われた。低日照による乳白粒発生要因は穂への同化産物供給量が不足するためと考えられているが、低日照後に高温乾燥風に晒されたことでなぜ乳白粒が多発するのかは明らかではない。そこで、圃場および人工気象室で「コシヒカリ」を対象に胚乳細胞の水分状態計測と安定同位体解析により、乳白粒の発生に至る生理機構を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 乳白粒発生率は、低日照後に高温乾燥風に24時間晒されると、低日照のみの処理に比べて著しく増加する(図1、表1)。
  • 24時間の高温乾燥風処理の間、穂ならびに穎果への炭素同位体の分配率は維持されており(表2)、同化産物の供給は損なわれていないことから、高温乾燥風による乳白粒の発生機構には、低日照による同化産物不足とは異なる生理要因が介在している。
  • 高温乾燥風条件下では穂の水ポテンシャルが低下し、水稲は水ストレス状態となる(表2)。このとき、浸透調節の介在を示す浸透圧の上昇と膨圧の維持が成長中の胚乳細胞で認められる(表2)。
  • 以上のことから、高温乾燥風条件下では、水稲の水分状態は一時的に低下するが、環境適応戦略として植物に広く存在する浸透調節が働くことにより、胚乳の成長が維持される一方で、胚乳における糖の集積が促進され、澱粉集積が阻害された結果、乳白粒が発生する(図2)。

成果の活用面・留意点

  • 浸透調節は水ストレス条件下で起こる順化機能であることを踏まえると、水ストレス耐性を高めるような肥培管理や、水ストレスに対する品種間差について、今後検討する必要がある。
  • 高温乾燥風で発生する乳白粒の多くはリング状乳白粒であるが、処理の時期や強度により白濁部の位置および形状が異なる可能性がある。

具体的データ

図1~2、表1~2

その他

  • 中課題名:気候変動下における水稲の高温障害対策技術の開発
  • 中課題整理番号:210a2
  • 予算区分:実用技術、科研費、交付金
  • 研究期間:2009~2011年度
  • 研究担当者:和田博史、森田敏、野並浩(愛媛大農)、薮押睦幸(宮崎県庁)、田中福代、丸山篤志、田中明男(鹿児島農総セ)、若松謙一(鹿児島農総セ)、角朋彦(宮崎総農試)、脇山恭行
  • 発表論文等:
    1) Wada H. et al. (2011) Crop Sci. 51: 1703-1715
    2) 和田(2013)農業および園芸、88(2):242-251