エンドファイト感染イタリアンライグラスはアカスジカスミカメ幼虫の密度を抑制する

要約

エンドファイトの一種Neotyphodium uncinatumに感染したイタリアンライグラスは、成熟期に昆虫に対して毒性のあるN-formyllolineを小穂や葉身に蓄積する。これにより、感染イタリアンライグラス上のアカスジカスミカメ幼虫の6月の発生量は抑制される。

  • キーワード:飼料作物、ロリンアルカロイド、アカスジカスミカメ、ヒメトビウンカ、耕種的防除
  • 担当:気候変動対応・暖地病害虫管理
  • 代表連絡先:q_info@ml.affrc.go.jp、Fax:096-242-7769、Tel:096-242-7682
  • 研究所名:九州沖縄農業研究センター・生産環境研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

イタリアンライグラスは国内における最も重要な飼料作物のひとつである。九州では主に水稲の裏作や飼料トウモロコシの後作として冬から春にかけて栽培されるが、水稲の重要害虫であるアカスジカスミカメやヒメトビウンカの越冬・増殖地になるため、こうした害虫の発生源対策としてイタリアンライグラス圃場での害虫密度抑制が望まれる。一方、エンドファイトの一種Neotyphodium uncinatumを人工的に接種したイタリアンライグラスはカメムシ目昆虫に対して毒性のあるN-formyllolineを体内に蓄積するため、害虫の発生しにくいイタリアンライグラスとして有望視されている。そこで、N. uncinatumを感染させたイタリアンライグラスについて、圃場での実用性を検討するため、感染植物体内におけるN. uncinatumN-formyllolineの動態を明らかにするとともに、感染植物の圃場におけるアカスジカスミカメとヒメトビウンカの密度抑制効果を検証した。

成果の内容・特徴

  • イタリアンライグラスに感染したN. uncinatumは分げつ期から開花期にかけて主に偽茎部で増殖し、それ以降は小穂部で増殖する(図1)。
  • N. uncinatumによって産生されるN-formyllolineは植物体内を転流し、成熟期には小穂と葉身に高濃度で蓄積される(図2)。
  • N. uncinatumに感染したイタリアンライグラス圃場におけるアカスジカスミカメ幼虫の発生量は、対照の非感染品種圃場に比べ5~20%程度に抑制される(図3)。アカスジカスミカメはN-formyllolineが高濃度で蓄積されている小穂部位を好んで吸汁することから、N. uncinatumの感染による密度抑制効果が顕著に現れたと考えられる。
  • アカスジカスミカメ成虫や、ヒメトビウンカ成幼虫に対する密度抑制効果は確認されない(データ略)。

成果の活用面・留意点

  • 重要な斑点米カメムシの一種であるアカスジカスミカメの初夏の増殖を抑制することにより、夏期の水稲での本種の発生量を抑制することが期待される。
  • 移動能力の高いアカスジカスミカメ成虫や、N-formylloline蓄積部位以外も吸汁するヒメトビウンカ成幼虫は非感染の株やN-formyllolineが蓄積されていない部位を吸汁しやすいことから、感染品種による密度抑制効果がみられなかった可能性が高い。
  • N-formyllolineは重要な斑点米カメムシであるアカヒゲホソミドリカスミカメに対しても殺虫効果がある。
  • イタリアンライグラスでのNeotyphodium属エンドファイトの感染率は、種子の保存条件や栽培条件等によって著しく変動することが示唆されており、本成果の普及のためにはエンドファイトの感染率を安定化させる必要がある。

具体的データ

図1~3

その他

  • 中課題名:暖地多発型の侵入・新規発生病害虫の発生予察・管理技術の開発
  • 中課題整理番号:210d0
  • 予算区分:交付金、所内強化費、農食事業
  • 研究期間:2011~2013年度
  • 研究担当者:松倉啓一郎、柴卓也(中央農研)、佐々木亨(日本草地畜産種子協会)、松村正哉
  • 発表論文等:Matsukura K. et al. (2014) J. Appl. Microbiol. 116:400-407