新規に同定されたトウモロコシ赤かび病菌Fusarium asiaticum

要約

赤かび病に罹病した飼料用トウモロコシ雌穂から分離された糸状菌は、トウモロコシ赤かび病菌として国内未記載のFusarium asiaticum と同定される。分離株のかび毒産生型は、ニバレノール産生型と3-アセチルデオキニバレノール産生型に類別される。

  • キーワード:トウモロコシ、赤かび病、Fusarium asiaticum、かび毒
  • 担当:食品安全信頼・かび毒リスク低減
  • 代表連絡先:q_info@ml.affrc.go.jp、FAX:096-242-7769、TEL:096-242-7682
  • 研究所名:九州沖縄農業研究センター・生産環境研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

赤かび病菌に感染した飼料用トウモロコシのかび毒汚染は、給餌された家畜に採食量の低下・下痢・免疫低下等を引き起こすため問題となっている。日本国内ではトウモロコシ赤かび病菌として、デオキシニバレノール(DON)やニバレノール(NIV)を産生するGibberella zeaeとフモニシンを産生するFusarium fujikuroi種複合体(F. concentricumF.fujikuroiF. proliferatumF. verticillioides)が記載されている。飼料用トウモロコシで発生する赤かび病菌菌種の調査過程で、国内でトウモロコシ赤かび病菌として未記載の糸状菌が分離されたため、トウモロコシに対する病原性を調査するとともに、分離菌を同定しかび毒産生型について解析を行う。

成果の内容・特徴

  • 九州沖縄農研センター内圃場(熊本県合志市内)で栽培された飼料用トウモロコシの赤かび病罹病雌穂からはF. fujikuroi(Ff)、F. verticillioides(Fv)、F. proliferatum(Fp)とともに、日本国内でトウモロコシ赤かび病菌として未記載の糸状菌(A)が分離される(図1)。
  • 分離株(AS1株、AS2株)をポテトデキストロース寒天(PDA)培地上で爪楊枝とともに培養し、絹糸抽出期のトウモロコシ雌穂に爪楊枝を穿刺接種することで赤かび病特有の白~ピンク色に腐敗する病徴を示し、その腐敗部位から再分離されることから、分離株はトウモロコシに病原性を持つ(図2A)。
  • 分離株はPDA 培地上で濃赤色の菌叢を、カーネーションリーフ寒天(CLA)培地上では子のう殻(図2B)、子のう胞子(図2C)、分生胞子(図2D)および硬膜胞子を形成し、その形態学的特徴はGibberella zeaeと一致する。さらに、分離株のhistone H3遺伝子およびmitochondrial small subunit ribosomal DNA領域部分配列の相同性、およびhistone H3遺伝子とtranslation elongation factor 1α遺伝子領域部分配列を用いて近隣結合法により作成した分子系統樹による解析(図3)から、分離株はF. asiaticumと同定される。
  • AS1株はニバレノール(NIV)産生型(NIVと4-アセチルNIVを産生)、AS2株は3-アセチルDON産生型(DONと3-アセチルDONを産生)に類別される(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 日本国内で発生するトウモロコシ赤かび病菌としてF. asiaticumが病原追加される予定である。
  • 飼料用トウモロコシにおける赤かび病(菌)の発生生態およびかび毒汚染実態の解明に有用な知見となる。
  • 分離株は農業生物資源ジーンバンクに寄託されており、2015年4月以降配布可能である。ジーンバンク登録番号は、244765(AS1株)、244766(AS2株)である。

具体的データ

図1~4

その他

  • 中課題名:かび毒産生病害からの食品安全性確保技術の開発
  • 中課題整理番号:180a0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2011~2014年度
  • 研究担当者:川上 顕、笹谷孝英、加藤直樹、宮坂 篤、井上博喜、富岡啓介、平八重一之
  • 発表論文等:
    1)Kawakami A. et al. (2015) J. Gen. Plant Pathol. 受理
    2)笹谷ら(2015)日草誌、受理