ウシ体外受精時の高温は多精子受精を増加させ胚発生を阻害する

要約

牛の夏季の体温に近い41°Cまたは40°Cで体外受精を実施すると、卵子の多精子侵入防止機構が阻害され、多精子受精が増加する。また、その後の胚発生能も低下する。

  • キーワード:高温環境、受精、多精子侵入、初期発生
  • 担当:気候変動対応・畜産温暖化適応
  • 代表連絡先:q_info@ml.affrc.go.jp、FAX:096-242-7769、TEL:096-242-7682
  • 研究所名:九州沖縄農業研究センター・畜産草地研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

夏季の高温期に牛の受胎率が低下することは大きな問題となっている。これまで受精後の初期発生時に高温に曝されることが胚発生を阻害する一因であると報告されている。一方で、人工受精時の体温と受胎率にも相関があることが報告されており、受精時の高温が受胎成立に大きな影響を及ぼすことが示唆されている。
そこで、受精時の高温が受精の成立、初期胚発生に与える影響を体外受精系を用いて、検証し明らかにすることを目的とする。

成果の内容・特徴

  • 屠場由来牛卵巣より採取した卵子を成熟培養後、BO 液を主成分とする精子懸濁液中(8.0x 106sperm/mL)で対照(38.5°C)、牛の夏季の体温に近い41.0°Cまたは40.0°C(高温受精)の温度設定下、5%CO2 in air の気相で6時間体外受精後、SOF培養液にて38.5°C5%O25%CO2 in N2の気相で発生培養を8日間行うことで得られる結果である。
  • 高温受精では対照となる38.5°Cと比較し、多精子侵入率が増加すると共に卵子内に侵入する精子数も対照と比較し増加する。受精温度が高いほど、多精子侵入率、侵入精子数も増加する(表1, 2)。
  • 高温受精によって透明帯の多精子侵入阻止機構が低下する(図1)。
  • 高温受精では、卵子の酸化ストレスが増加し障害を受けている可能性が高い(図2)。
  • 41.0°C、40.0°Cの高温受精は多精子侵入や卵子の障害により、受精の成立を示す分割率を低下させるだけでなく、受精成立胚における初期胚発生率(胚盤胞発生率)も低下させる(表1, 2)。

成果の活用面・留意点

  • 受精時に用いる培養液や精子濃度によって、多精子侵入率、精子侵入数は変化する可能性がある。
  • 夏季に受精させる母体の体温管理や飼養管理に参考となるデータである。

具体的データ

図1~2,表1~2

その他

  • 中課題名:畜産由来の温室効果ガス制御技術の高度化と家畜生産の温暖化適応技術の開発
  • 中課題整理番号:210c0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2011~2014年度
  • 研究担当者:阪谷美樹、竹之内直樹、山中賢一(佐賀大)、高橋昌志(北大)
  • 発表論文等:Sakatani M. et al. (2014) Mol. Reprod. Dev. DOI: 10.1002/mrd.22441