一工程で耕起と同時に種子を表層に全面播きできる表層散播機
要約
アップカットロータリを活用した播種機で、ロータリの整地板を外した状態で、ロータリ後方へ飛散する土の中に種子を散粒することにより、目的とする播種深度を保ちつつ全面播きを一工程で、畑状態の圃場に麦・ソバ・稲等を播種する機械である。
- キーワード:アップカットロータリ、散播、播種深度、一工程播種
- 担当:新世代水田輪作・暖地水田輪作
- 代表連絡先:q_info@ml.affrc.go.jp、Tel:096-242-7682
- 研究所名:九州沖縄農業研究センター・水田作研究領域
- 分類:普及成果情報
背景・ねらい
北部九州においては、一般的に稲・麦等の播種は条間30cm程度の条播で行われるが、品種・作目によっては密条播による収量増等のメリットがある。しかし、条数を増やすことは機械的・コスト的に制限があり、条件によっては散播が有効である。ソバなどの散播では種子を散粒してからロータリで土壌と種子を攪拌する全面全層播もあるが、作業工程が増えるとともに、播種深度が耕深と同程度にばらついて過度の深浅が生じるなどの問題がある。そこでアップカットロータリの特性を活用した一工程で全面播きを可能とする播種法で、表層に播種する「表層散播機」を開発する。
成果の内容・特徴
- 表層散播機は、ロータリの整地板を外したレーキ付きアップカットロータリに大型の散粒器を組合せた構造である。種子はロータリ後方から飛散する土の中に散粒器によって播種され、ロータリから飛散する砕土された土壌によって覆土される(図1)。
- 畝幅に近い大型でカバー付の散粒器に複数の種子繰出部とホースによって種子を分配し、さらに散粒器を約45°に傾けることによって種子の落下方向を分散させ、全面播きを実現している(図2)。散粒器とロータリの距離を調節することによって播種深度を調節できるが、播種深度は表層である程度分散する(図3)。
- 麦類、水稲(乾田直播)及びソバの栽培において、収量性に問題の無いことが示されており、ソバでは表層散播の密播によって多収が得られている(図4)。
- アップカットロータリによる一工程播種は省力的だけでなく、播種まで未耕起なので降雨直後でも播種が可能な場合が多い。また、条播と異なり、播種装置が土壌に直接接触しないので、土壌水分が比較的高い条件でも播種が可能である(重量含水比80%での播種事例あり)。
- ロータリ爪の配列を変えることで、平畝、高畝を選択できる。
普及のための参考情報
- 普及対象:麦・ソバ・水稲(乾田直播)等の生産者
- 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:九州を中心に20~30台/年の普及を予定
- その他:開発した表層散播機は佐藤商会から「電動施肥播種機」として販売されている。慣行栽培との比較試験から条件によっては倒伏リスクが高まるので、そのような場合には耐倒伏性の高い品種との組合せが有効となる。また、大豆等の大粒種子では種子が土壌に弾かれて播種深度が浅くなり地表に出やすくなり、ナタネのような球に近い種子では散粒幅が不十分になり播種分布にムラが生じる。
具体的データ
その他
- 中課題名:新規直播技術を核とした安定多収水田輪作技術の開発
- 中課題整理番号:111b5
- 予算区分:交付金
- 研究期間:2011~2015年度
- 研究担当者:土屋史紀、田坂幸平、中野洋、山口典子、原貴洋、手塚隆久、深見公一、佐々木豊、椛島貞幸(佐藤商会)
- 発表論文等:
1)土屋ら「耕耘同時施用機」 特許第5397954号 (2013年11月1日)
2)Nakano H. and Tsuchiya S. (2012) Crop Science 52:345-350
3)山口ら(2015)土肥誌、86(3):198-201
4)農研機構他(2016)「水稲乾田直播を核としたアップカットロータリの汎用利用による稲・麦・大豆輪作技術マニュアル」